トヨタが燃費競争に参入したワケ

熱効率は昔から自動車メーカーの技術競争の象徴だったのだが、ここにきて各社がこれほど前のめりになったきっかけとなったのは、マツダが2011年に「スカイアクティブエンジン」を投入したことだった。

ホンダは昨年9月に発表した「フィット」の1.3リットルエンジンで熱効率37%を達成したが、「当初の目標値はもう少し低かったのだが、マツダさんのスカイアクティブエンジンを見て戦略を修正した」(エンジン開発担当)という。今回のトヨタの新エンジンを開発したエンジニアも「38%という数値は、言うまでもなくマツダさん、ホンダさんも意識してのこと」と語る。もともと40%という目標は、エンジンの使い方が限定的ですむことから熱効率を上げやすいハイブリッドカー用エンジンを想定したものだったが、競争激化で今や、普通のエンジンでも40%を見すえた開発が本格化しているのだ。

トヨタ自動車が発売した新型パッソ。国内最高燃費の新エンジンを搭載。

トヨタがクルマの発表会とは別に新エンジンの技術説明会を行った目的は、まさにその熱効率戦争でトヨタがトップランナーの一社であることをアピールすることだった。このところライバルメーカーが次々に高効率エンジンを市場に投入したことでトヨタの技術イメージが薄められていることを懸念する声は社内からも聞こえていた。

にもかかわらず、これまでトヨタは、内燃機関単体の技術発表にはあまり熱心ではなかった。トヨタ環境フォーラムという自社技術の披露会を不定期に行っており、そこでエンジン開発に関するポリシーも発表してはいたのだが、あくまで主軸は得意としているハイブリッド技術で、エンジン単体では大したアピールをしてこなかった。

「原因のひとつは、ミスターハイブリッドを自任する内山田さん(内山田竹志会長)の現場に対する影響力が強かったこと。あくまで主役はハイブリッドで、エンジンは脇役。ガソリンエンジンはまだいいほうで、ディーゼル部門などは内山田さんの前では小さくなっていなければならなかった」

トヨタのエンジニアの一人は内情をこう語る。世界におけるトヨタのブランドイメージを大きく引き上げる原動力となったのがハイブリッド技術であったことに疑いの余地はない。内山田氏はその最大の功労者の一人で、豊田章男社長も商品、技術面については全幅の信頼を置いていた。本来、現場を離れた人材は次の世代へと権限を移譲していくものだが、内山田氏は存在感があまりにも大きく、技術担当副社長から副会長、会長へと昇格しても現場への影響力は強く残ったのだ。

が、現場を離れれば、肌身感覚は次第に薄れるもの。ハイブリッドはクルマの商品力を上げるのに非常に有効な技術のひとつだが、万能ではない。ハイブリッドカーの販売台数を見ると圧倒的に多いのが日本で、次いでアメリカ。その他の地域ではハイブリッドはシェア拡大のキラーコンテンツにはなり切れないでいる。とりわけ購買力の低い新興国では、普通のエンジン車のニーズが圧倒的に高く、ハイブリッドを早期に売り込むのは難しいということは、かなり早い段階で判明していた。