20代OLのリアルは、正直、私にはわかりません。まして男子中学生の気持ちはもっとわからない。だから私は、電車の中で普段はあまり接触しなそうな人の近くに立ち、会話を盗み聞きするようにしています。その人たちの言葉がそのままコピーに使えるわけじゃないですが、どんな言葉づかいで、どんなテンションで話しているのかを知ることには意味がある。ディテールから、時代の流れが見えてくることもあります。
ただし、わかったつもりになったおもねりは禁物。若い女性とお茶をしているときに、「今の子たちってカフェ好きだよね」と言っても、「この人、うっとうしい」と思われてしまいがちです。私なら、「僕は麦茶が好きなんだよ」とか、素直な思いを話してほしいし、そのほうが共感を得られる可能性はずっと高い。コピーをつくるときも同じで、合わせたつもりでもすぐ見破られてしまいます。
ここまで「自分ごと化」の話を続けてきましたが、女性は共感だけで動くほど甘くもない。気持ちを前に向けないと動きません。
LUMINEで書いた「何を着てもかわいくない日も、たまにはあるけど。」というコピー。こだわりは「けど。」にあります。
他人にはいつもと同じように見えても、顔がむくんでいたり髪型がまとまらなかったりして、ちぐはぐに感じる日があることは女性ならみんなわかるはず。でも、その「残念な日」に共感するだけでは何も生まれません。「けど」をつけることで、「それでもあなたは素敵だよ。だからオシャレ楽しもうよ」と伝えたかったんです。
女性を動かすには、客観的な数字ですら意味をなさないときがあります。自ら前向きな気持ちになって初めて、「よし、買いに行こう!」と思う生き物ですから。
1978年生まれ。2001年、博報堂入社。主な仕事に、資生堂、LUMINE、日産自動車など。朝日広告賞グランプリ受賞。10年には『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』で小説デビュー。