この「ほどほど感」は会社という組織の話だけではない。その大本を辿れば、組織で働く1人ひとりの意識の問題だ。

テキサス・レンジャーズで活躍するダルビッシュ有投手がメジャー移籍に際して残したコメントはとても印象的だった。「相手チームの打者に試合前から『打てないよ』とか『投げないで』とか言われる。日本では、もうフェアな勝負はできないと思った。純粋にすごい勝負がしたかった」。

日本では圧倒的な力で制圧してきたダルビッシュにとって、対戦相手が戦う前から白旗を上げ、最初から勝つとわかっているような勝負が面白いはずもない。100%、120%の力を出さないと勝てないような環境に身を置きたいとする闘争心こそがダルビッシュの最大の武器だ。

ポスティングシステム(入札制度)の日米間協議が難航し、メジャー移籍がなかなか決まらない楽天の田中将大投手の胸中も同じだろう。開幕からのシーズン24連勝、前年からの28連勝、ポストシーズンを含めた30連勝の3つがギネス世界記録として認定されたマー君にとって、日本に残るという選択は「ほどほどでいい」という選択でしかない。

未知の勝負に挑もうとする闘争心があるからこそ、人間は成長する。そして、そうした人間が集まることによって、組織の力も高揚していく。人間にとって、環境はとても大事だ。70%で満足している集団に属せば、やがて自分も染められていく。

まったくやる気がないわけではない、無気力ではないというのは、かえってたちが悪い。「ほどほど感」というのは、個人にとっても、組織にとってもとても怖い症状なのだ。