そもそも顧客に直接会って質問する目的は、データからはわからない顧客の状況を聞き出し、顧客がいま抱えている課題を把握し、深層にあるホンネを引き出すためである。その意味で、われわれは質問力を「相手のホンネを引き出す力」と定義している。

相手のホンネを引き出すためには、『シーン別・その「一言」がすべての成績を分ける【2.ヒアリング】』で説明した「カットイン」が重要だ。「ワンメリット・ワンクエスチョン」を心がけ、質問に答える価値を感じさせてからヒアリングに入るのである。

次に重要なのが、質問すべき項目を明確にすることだ。ヒアリングシートをつくっている企業は多いが、聞くべき項目は購入条件だけで、顧客のホンネにつながる質問はゼロ、というところが少なくない。

顧客の状況を知り、ホンネを引き出すには「なぜ」「何を」「どのように」といった質問を投げかけていく。成果が上がらない企業では、これらがヒアリング項目として明確化されていない。

答えが返ってきてからも注意すべきことがある。質問に対する顧客の答えは「あれも必要」「これも必要」と思いつきの羅列で、決して整理されていない。ダメもとの要求が交ざっていることもある。営業担当者はそれらの中で何が最も重要なのかを判断し、絞り込まなければならない。

営業における感情移入とは相手を理解するだけでなく、プロとして課題解決のアクションに結びつけることも含んでいる。つまり、ヒアリング内容に基づき有益な提案をつくることが必要なのだ。

このとき、顧客の要望に優先順位をつけないまま提案をつくってしまうと、どんなによい内容に見えても顧客からは「ピントがずれている」という評価になりかねない。

逆に言えば、顧客の要望が10個あったとしても優先順位の1位さえ外さなければ問題はない。2位から10位の要望を満たせても、1位の要望が満たされていなければ必ず不満が残るが、1位の要望を完璧に満たしていれば「ほかは仕方がない」と納得してもらうことも可能だからだ。

(構成=宮内 健 撮影=早川智哉)