また、話が迂遠になりがちなのも発達障害の特徴だ。たとえば「今日、どうやってここに来たの?」と質問すると、「京王線の新宿行きの前から3両目の2つ目のドアから乗って左側の椅子の右から3番目に座って……」というように、相手の質問の意図を考えずに延々と「どうやってここに来たか」を説明する。相手は電車で来たのかそれとも車で来たのか、交通手段を聞きたいだけなのに、相手の意図を読み取ることができないのだ。
「発達障害の人は興味の偏りが強いので、性的な嗜好にも独特のものを持っている場合が多く、軽率には言えませんが、性犯罪者のプロフィールと重なってしまう部分があるのです」
たとえば、単に痴漢をするだけではなく、痴漢をした後、その女性と合意に達してホテルに同行し、監禁し、さらに調教をするといった独自のストーリーを思い描き、それをいきなり実行に移そうとしてしまう。コミュニケーション能力が高ければ、こうした行為を合意のうえで行うことも可能かもしれないが……。
「発達障害の人はコミュニケーションに障害があり、しかもパニックを起こしやすい。女性を無理矢理ホテルに連れていこうとして大声を出され、パニックを起こして暴行を加えてしまうようなケースもありますね」
ただし、健常者と同様、大多数の発達障害の人は犯罪を犯さない。彼らが偏見を持たれない配慮が重要だと、福井氏が強調していたことを付記しておく。
1969年生まれ。京都大学工学部、医学部を卒業後、京都大学医学部附属病院、公立小浜病院、国立精神・神経センター勤務などを経て、2012年犯罪精神医学研究機構機構長。性犯罪者の再犯防止のための治療・研究を行っている。