スーパーエリートが抱える「心の傷」

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エリート社員、2012年「10大事件簿」

以上のストーリーは、犯罪に走るエリートサラリーマンの典型的なパターンのひとつだ。表は、エリートビジネスマンが起こした2012年の10大事件。確信犯ともいえる横領やインサイダー取引もあるが、目立つのは性的犯罪や暴力犯罪だ。なかでも12年8月、日本IBMの最高顧問だった大歳卓麻氏が女性のスカートの中を盗撮した事件の衝撃は、いまだに忘れることができない。

大歳氏は東大工学部の出身。1999年から2008年まで、約10年の長きにわたって日本IBMの社長の座にあった。犯行当時も大手企業の社外取締役や総務省の審議会会長に就いており、いくら「盗撮に興味があった」とはいえブレーキは大きかったはずだ。なぜ、大歳氏のようなエリートの中のエリートが、突如として犯罪者に転落してしまうのか。

NPO法人・性犯罪加害者の処遇制度を考える会代表理事で医学博士の福井裕輝氏によれば、性犯罪に走りやすい人にはある共通点が存在するという。

「ひとつには、自己愛が過剰に強いことがあげられます。他者からの賞賛を過剰に求める傾向が強いのです。ある意味で理想が高いとも言えますが、その一方で、他者を物のように扱ったり、男尊女卑的な考え方が強いのも特徴的です」

自己愛が強い人物は、一見、プライドが高いように見える。しかし、本物の自尊心を持っていないため、冒頭の事例に登場するA氏のようにちょっとしたダメージを受けただけで大きく傷ついてしまい、それが犯罪の契機になる。周囲から見ればたいしたことではなくても、本人はそれを許容できないのだ。

福井氏によれば、自己愛性パーソナリティー障害と診断されるような重症者の場合、先天的な疾患であるケースが多いが、それ以外の、病気とまでは診断できないレベルの場合、愛情の不足が過剰な自己愛の原因である場合が多いという。

「一般的に、自己愛の強い人には親からちやほや甘やかされて過保護に育てられた人が多いですね。過保護に育てられているにもかかわらず、親から適切な愛情を分け与えられていない場合に自己愛が強くなりすぎる傾向があります」