稲盛会長は最初、こう言いました。

「僕は、航空業界は何も知らない素人です。僕が持ってきたのは2つだけ。1つは、フィロソフィ。もう1つは、部門別採算制度です」

実際、この2つでJALは立ち直りました。今までのJALであれば、「フィロソフィ」と言われても馬鹿にしていたでしょうが、破綻を経験し、以前のやり方ではダメなことはわかっていたので、ビックリするくらい浸透していきました。実践の場でも、稲盛会長に何度も叱られながら、皆どんどん吸収していきました。

私自身も、勉強会の翌日、会議の場で「目標に向かって一緒に熱くなろう」と言いました。周りからは「植木さんは、そんな泥臭い言葉を使わない人でしたよね」と苦笑されたものです。気がつくと、稲盛会長から言われたとおりのことを言っている。

厳しい合理化策を実施するときも、「二度と会社は潰さない」という信念は変わらないものの、心は揺れます。そのときに、稲盛会長の「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」という言葉が身に染みました。非情でも大善をなすべきだと、鼓舞されたのです。また「大義を背負ったときに、人間は1番強くなれるよ」という言葉も、ありがたかった。「会社を甦らせる」という大義を背負うことで、迷いを吹っ切れました。私としては、最もピンチのときに、稲盛会長のフィロソフィに触れて、経営者としての、いや人間としての考え方を教わったわけです。

リストラをすると安全は守れないか

運航本部長時代に、私は稲盛会長に詰め寄ったことがあります。

「安全が大事なんですか、利益が大事なんですか」

稲盛会長は「両方だ」とはっきり言いました。

「安全なくして、この会社が存立するわけがない。安全は1番大事なんだ。だけど、その大事な安全を守るためにはお金がかかるだろう? だったら、安全を守るためには、利益も生まないとダメなんだ」