最後に1つだけ申し上げておきます。目下のところ、一般市民としての日本人がすべきこと、それは「落ち込みすぎないこと」です。被災地の方の苦しみや悲しみに共感すること、それ自体は脳の自然な働きです。しかしその苦しみに共感するあまり、今は日本全体が暗く落ち込んでしまっている状態です。
この暗さは脳の働きとしてはとても困った問題です。僕はよく学生に「根拠のない自信を抱け」というのですが、楽天的でないと前頭葉はうまく働いてくれないんですよ。今のように落ち込んでいるとき、基本的に脳は「危機回避モード」になっています。これは動物実験でいえばフリージングの状態、つまり「何をしても危険だから何もしない」不活性状態です。僕らが日本国民として重い課題を背負っているのは事実ですが、一方ではその課題は克服できると自信を抱く必要もあるのです。
地震以来、自粛モードも続いていました。でもお花見で飲む酒は宮城や岩手のどこかの蔵元の酒かもしれません。自分が消費することで、巡り巡ってどこかの地元の経済が潤うかもしれない。2ステップか3ステップ経れば、被災地にお金が届くということを頭の中でイメージして消費していき、日本経済の体力をつけていくことが大切なのだと思います。
1962年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授。『ピンチに勝てる脳』『脳と仮想』『セレンディピティの時代』など著書多数。