不特定多数とコミュニケーションをとるシステムとしては例えばツイッターやフェイスブック等がある。しかしこれらはオープンなシステムなので、ユーザーはパブリックな場所にいるようなものだ。丁度、身だしなみを整えて外出するようなイメージなのだ。ところがこのようなスタイルだと周囲への気づかいから息苦しくなり、ストレスがたまる。人は、常にパブリックな場面ばかりでコミュニケーションをとりたいわけではない。家で気楽な格好でリラックスしたい場面も少なからずある。そこに着目したのが、LINEなのだ。

「逆ポジションをとりましょう」と舛田氏は語る。以前、人々は日常生活においてフェース・ツー・フェースのコミュニケーションを行っていた。ところがSNSが一般化するようになると、プライベートなコミュニケーションが行いにくくなり、逆に人と人との間の距離が遠くなってしまった。もちろん電話やメールはあるものの、それは旧態依然とした不便さを引きずるもので、新たなスマホ時代にマッチしたものではない。そこで現代に適合する進化した諸種のコミュニケーション・ツールを統合するような形ででき上がったのがLINEなのだ。

LINEはクローズドなSNSなので、コミュニケーションを図る既知の相手(個人、スモールグループ)を可視化(特定)することができる。それにより肩の凝らないコミュニケーションが可能になるのだ。例えば、上司の悪口を言ったり、昔の彼女としゃべったりしても、クローズドな世界でのコミュニケーションなので、傍目を気にする必要がない。舛田氏は、「私どもは、ある種、肩肘を張って背伸びをしてコミュニケーションをとるという世界は誰かにおまかせして、(中略)大切な人との人間関係をより密にするホットランとしての役割を果たそうとしています」と話す。気の置けない友人と気楽にしゃべること、それこそがコミュニケーションの本質であると喝破し、例えばメッセージを交換する漫画の吹き出しのようなテキストスペースやスタンプのようにアバター的な機能をもった表情豊かなキャラを開発し、自然な会話を実現したのである。

同社の当初のメーンターゲットは、女子大生や社会人3年目ぐらいの比較的若い女性であった。それゆえ、まず女性に使ってもらうために、それに相応しい使い勝手やデザインを考案したという。例えば、スタンプは、このコミュニケーション・アプリの区別性を際立たせるうえで、非常に大きな効果をもっている。コニー、ブラウン、ムーン、ジェームズといったキャラは、素朴な愛らしさがあり、かつ表情も豊かで、コミュニケーションを促進する重要なアイテムになっているのだ。舛田氏によると、同社では、スタンプがこれほどまでに重用されるとは想定していなかったという。