世界的に富の格差が拡大し、AIなどによる自動化が新たな失業をもたらしつつある今、裕福な先進国から発展途上国まで、国民に無条件の最低収入を提供しようとする国が出てきている。
全国民共通のユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)を完全に実施している国はまだないが、一部の国では、その国に特有の問題や多くの国民に共通する問題への対策として、UBIに似ているが対象を絞った制度「ギャランティード・ベーシックインカム(GBI)」などの実験を続けている。
金額、受給者、目的は様々だが、こうした実験を行うことで、ベーシックインカム制度への抵抗を和らげ、その財政的意義も明確化して、国民すべてに最低所得を保障するという急進的な経済政策を受け入れる社会的な素地を作る狙いもある。
本誌の取材に応じた専門家によると、ベーシックインカム制度は、貧困を緩和し、それぞれの国や地域の福祉制度で十分なサービスを受けていない人々に経済的安定をもたらすだけでなく、市民が労働以外の優先事項に時間を割くことを可能にするという。
「今日の社会的セーフティネットは、とても安全と呼べるものではない」と、コロンビア大学ソーシャルワーク学部のロブ・ハートリー教授は本誌に語った。「だが(UBIのような)所得保障制度なら、家族が生活していくための最低限の基盤を提供できるかもしれない」
「肝心なのは、『支援に値する』ことを証明しなくても、尊厳をもって生きるのに十分なお金を誰もが確実に手に入れられるようにすることだ」と、カナダの医療経済学者でベーシックインカム研究者のイブリン・フォルジェは語る。
スタンフォード大学のベーシックインカム研究所の創設者ジュリアナ・ビダダヌレは、無条件の給付にすれば、生活保護の受給資格審査という時間とコストがかかる手続きがいらなくなると語る。
「官僚的で行政コストも大きい資格審査の手間が減り、国家機関が貧困にあえぐ人々の暮らしに介入する事態も防ぐことができる」と、ビダダヌレは言う。「申請も質問もなく絶望的な貧困から解放され、自由に生きるための真の権利が実現する」
スタンフォード大学のベーシックインカム研究所によると、現在世界中で数十のUBIまたはGBIプログラムが実施されている。最も多いのはアメリカ国内だが、アフリカ、アジア、ヨーロッパの都市でも、社会的格差に対する潜在的な解決策として、ベーシックインカムの選択肢を試行している。
韓国:「飛び石」プログラム
韓国では、京畿道の24の市と郡において農民と漁民を対象とした新しい取り組みを実施している。年2回申請が可能で、認められれば年間180万ウォン(1312ドル)を受給できる。農産物取引のデータハブ、トリッジによると、受給者の総数は21万人と推定されている。
韓国では過去にも、今年初めに終了した「ソウル飛び石プロジェクト」などのプログラムが実施されてきた。
所得が全体中央値の85%未満の家庭を対象に支援を行ったソウル市のプログラムでは、2年間で参加世帯の8.6%が支援対象から脱し、31%の世帯で所得が増加した。

