くら寿司チェーンは、1000人ほどの正社員と、パートやアルバイトを約2万人抱えている。社員は店長のように管理の仕事が中心だが、会社のコンセプトと綿密なマニュアルに従い、資産の保全と利益の確保につとめることが基本だ。社員教育ではまず自分が幸福になるためには、何をするべきかを徹底的に教え込む。それは、一生懸命、一心不乱に仕事をやることにもつながる。ただ、その過程で大事なことは、ゼニ、カネばかりを追うなということだ。たとえば、プロ野球の有力なバッターなら、ヒットやホームランを打つことに専念する。イチローや松井選手にしても、今度は1億、次は10億にしたいと年俸を上げようと考えながらバッターボックスには立ってないと思う。特に幹部候補の社員には、自分を戒めよ、欲を捨てよ、自己中心の卑しい根性を持つ人間になるなと口を酸っぱくして言っている。

年俸や報酬は一定の目標をクリアして得られるものだが、私どものようなマニュアルを中心とする業務では個人プレーよりもチーム力を評価の基準としている。ただ、サプライズもなければ面白くない。そこで社内で決めた利益目標を達成した場合、幹部の社員全員に一律給料の2倍を支給することもある。一方で、「給料が半分に減らされてもこの会社で頑張りたい」と、愛社精神がある中堅幹部も増えてきた。生きがい、働きがいを美学とする社員は心底頼れるので大切にしたい。

ただし、私が最も嫌いなタイプは、ゴマすりの忠誠心だ。そういう出世欲の強いヒラメのような社員は会社の利益を考えないし、部下も育たない。社内では徹底的に排除するようにつとめている。オリンパスの問題を例にあげるまでもないが、叱られるのが怖いから言わないとか、出世の妨げになるような都合の悪い話は隠そうとする。それが後になって、取り返しがつかない問題を引き起こすことになるからだ。

今一番欲しい人材は、海外展開するときに役に立つスペシャリストである。語学研修などの海外向けの社員教育にも力を入れ始めたが、即戦力にはならない。4年前、米国のロサンゼルスに出店した際、現地で300ページほどの英文の契約書を交わしたが、法律関係の専門用語が多く、大変苦労した。その解釈を1つ読み間違えても、膨大な損害賠償の対象になるからだ。回転寿司チェーンも、グローバル化は喫緊の課題。これからは海外進出を積極的に推進しなければ、10年後は生き残れないと思っている。

くらコーポレーション社長 田中邦彦
1951年、岡山県生まれ。69年、総社高等学校卒業。73年桃山学院大学卒業後、タマノヰ酢(現タマノイ酢)入社。77年に同社退社後、大阪府堺市に寿司店を開業。90年、くら寿司を設立。95年、くらコーポレーションを設立。
(福田俊之=構成 交泰=撮影)
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