ツボ(経穴)が、実はWHOから正式に認定されていることは、あまり知られていない。患部から離れていても、押せば痛みが消えるそのメカニズムを解説。さらに、身近な20の悩みを解決する「ツボ押し」法を徹底ガイドする。

西洋医学主流のWHOが「東洋の神秘」を認めた

2008年、WHO(世界保健機関=World Health Organization)により医学的効果が認められた361穴のツボが正式に認定されました。西洋医学主流のWHOが「東洋の神秘」ツボを認めるという、画期的な出来事でしたが、そこに至るまでには、長年にわたる水面下での動きがあったようです。

かなり前の話ですが、私は鍼はりの専門学校在学中に研修旅行で北京を訪れました。そのとき現地の先生が、「中国では鍼で麻酔をして、開腹手術をするんだぞ」と一枚の写真を見せてくださいました。そこには男性が手術台に横たわり、鍼灸のツボである合谷ごうこく(手の甲側で、親指と人差し指の骨が合流するあたり=記事末の図参照)と曲池きょくち(肘を直角に曲げたときにできる肘関節の横皺の親指側にある窪み=同図参照)に鍼を打ち、コードをつないで微弱電気を流した状態で手術を受けている様子が映し出されていました。しかも患者は手術を受けながら笑っている。驚きでした。後で知ったのですが、すでに1972年に、中国での「麻酔鍼」による外科手術の様子が海外メディアに公開され、全米のテレビ局が放映しています。私が見た写真がこのときのものかわかりませんが、当時はかなり話題になったようです。

72年といえば、米国のニクソン大統領が訪中した年。公開手術はこれに合わせて行われたのですね。このときはまだ両国に国交はなかったのですが、外交関係の雪解けムードもあり、世界の関心が中国に集まりました。前年の71年には、ニョーヨーク・タイムズ紙のJ・レストン記者が中国訪問中に虫垂炎の手術を受け、術後に激しい痛みに襲われ鍼治療を試したら、痛みが和らいだという記事を書いています。

麻酔鍼は、今でも中国では麻酔薬の補完として使われます。が、当時のテレビ報道は大げさすぎてヤラセではとの批判もありました。

それでもWHOはすでに70年代からツボに関する資料を収集し、その有効性に関する研究に取り組んでいたようです。80年代以降、研究は本格的になり、文献研究に加え、鍼灸治療を受けるグループと受けないグループ(または偽の鍼治療を受けるグループ)に無作為に分けて、治療効果を比較するという実証実験が繰り返し行われました。

並行してツボの国際標準化作業も進められました。鍼灸は中国で生まれ、紀元前100年頃にまとめられた『黄帝内経』に体系的な記述が見られますが、今日、鍼灸治療が盛んな中国、日本、韓国の3カ国で、ツボの数や位置が微妙にズレていたからです。

そこでWHO主導のもと、各国の専門家が出席して会議を行い、調整が図られました。その結果、89年にジュネーブで開かれた会議で、361穴のツボと経絡の名称が決定しました。さらに、2006年には、日本のつくば市で、日本、中国、韓国、シンガポール、ベトナム、米国、オーストラリア、モンゴル、英国の9カ国と2つの国際組織が参加し、WHO西太平洋地域事務局(WPRO)が主導する経穴部位国際標準化公式会議が開催されました。そこでツボの名称に加え部位が確定、361穴のツボが国際標準として認められたのです(公式文書の刊行08年)。WHOのツボ認定は、先人たちの長い年月をかけた努力と、国際協調のお陰で実現したのですね。

現在、WHOは頭痛、顔面痛、肩こり、関節炎、リウマチ、坐骨神経痛、捻挫などの疼痛慢性疾患、脳卒中後遺症、神経痛、神経麻痺などの神経系疾患、吐き気、胃炎、消化性潰瘍、嘔吐などの消化器系疾患、花粉症を含むアレルギー性鼻炎などの呼吸器系疾患、婦人科・泌尿器系疾患、循環器系疾患、うつなどの精神疾患などに対するツボ治療の効果を認定しています。

患部から離れているツボを押しても治る理由

ツボ治療はなぜ効果があるのか、研究はまだ継続中ですが、いくつかのメカニズムが証明されています。

まずは、患部に近いツボを刺激することで周囲の血管が拡張して血流が増加し、筋肉がほぐれ、痛みなどの症状が軽減します。しかし、それだけではありません。ツボは気エネルギーの通り道=経絡の上にあり、患部から離れた経絡上にある部位を刺激しても治癒の効果が得られます。これは東洋医学の常識ですが、それが西洋医学的にも証明されつつあります。