夫を亡くした8日後、婦人記者に応募した暢

暢が高知新聞に掲載された「婦人記者募集」の記事を見て、受験に挑んだのは、なんと夫を亡くしたわずか8日後。31人の中から合格者2人に選ばれ、最初は高知市役所の担当となり、進駐軍のジープに乗ってあちこち取材、女性問題や戦争遺族の窮状を報道した後、雑誌の『月刊高知』編集部に異動。そこにやなせが配属され、急接近することになる。

やなせは出会った頃の暢について「中根式速記の名手。ドイツ製一眼レフカメラを持ち、取材では大変役に立った」と語っており、親族は「総一郎さんはハイカラな方でライカのカメラを暢さんに贈ったそうです」と語っている(『やなせたかし はじまりの物語』)。

ドラマではのぶと嵩は小学生時代に出会う幼なじみとして描かれているが、これは明らかな創作である。脚本家の中園ミホはやなせたかし氏と生前に交流があり、「徹底した取材と記憶をもとに脚本の執筆に至る」としながらも、ドラマとしての構成上、この設定を選択した。

小説版『NHK連続テレビ小説 あんぱん(上)』(作:中園ミホ、ノベライズ:後藤美奈、NHK出版)
小説版『NHK連続テレビ小説 あんぱん(上)』(作:中園ミホ、ノベライズ:後藤美奈、NHK出版)

脚本家・中園ミホが、ヒロインを軍国少女設定に?

ドラマではのぶが軍国少女、女子高等師範学校の生徒を経て教師になり、子どもたちに「立派な兵隊さんになること」「お国のために命をかけること」を教えるが、それが間違いだったことに戦争が終わる間際になって気づいて、自分の罪を激しく悔やみ、教師を辞めてしまった。しかし、同書を読むかぎり、暢に軍国少女時代や教師時代はなく、ドラマオリジナルの設定のようだ。

これまで朝ドラでは多くのヒロインが反戦の立ち位置で描かれてきたが、当時の時代性を考えると、むしろ軍国主義に染まっていた人が多かったはず。「あんぱん」では、そうした時代の流れを汲み、なおかつ、やなせの「逆転しない正義はない」という言葉とからめて、のぶというキャラクターを通して、軍国主義に洗脳された大衆が、戦争に加担した者が、戦争の愚かさ・醜さを知り、変化していく様を描くことに成功している。

のぶが「愛国の鑑」と呼ばれたり、「この戦争が終わるときは日本が勝つときです」と攻撃的に言ったりする姿には、一部の視聴者から拒否反応も出たが、中園はインタビューで「現代の人たちが、そういうヒロインを毎朝見てくれるかな、ということに悩み、一行一行迷いながら書いていました」と語っている。

また、嵩とのぶを幼なじみに設定したことにより、猪突猛進型の「はちきん(土佐弁で「男勝り」)」の「のぶ」と臆病で優柔不断な嵩の対比、2人の幾度ものすれ違い、嵩の一途で深い愛と、2人の関係性の変化も生き生きと描き出してきた。