浮気、不倫、DVなどは簡略化し史実を美化
配信での個人視聴が増える今でも、朝ドラには「家族みんなで安心して見られる」ことを求める層が確実にいる。このため、実在人物の複雑な人間関係――不倫、借金、家族への犠牲、差別的行動、重婚疑惑など――は、しばしば簡略化や美化の対象となる。しかし、あまりに美化しすぎると「嘘くさい」と感じる視聴者も出てくる。この微妙なさじ加減は実に難しい。
今ではSNSによる即座の反応や史実検証が行われるため、史実改変に対する視聴者の目も厳しくなっている。一方で、完全に史実通りにすると、現代の価値観にそぐわない部分や、朝ドラの枠組みにふさわしくない内容も含まれてしまう。
フィクションだと明言した「あんぱん」の勝因
「あんぱん」は、これまでの実在モデルがいる朝ドラの試行錯誤を踏まえ、最初から「フィクション」であることを明確にした上で制作されている。これは一つの解決策といえるだろう。実在モデル朝ドラの変遷を見ると、完全な史実再現でもなく、完全な創作でもない「第三の道」として、史実を骨格としながらドラマとしての面白さを追求する手法が確立されつつある。
重要なのは、史実への敬意を保ちながら、現代の視聴者に響く普遍的なメッセージを込めることである。また、視聴者も「実話ベース」の真意を理解し、史実とドラマの境界線を意識しながら作品を楽しむリテラシーが求められる。
今後の実在モデルの朝ドラにおいて重要なのは、史実改変を「悪」と決めつけるのではなく、どのような改変なら許容されるのか、どこまでなら「実話ベース」として成立するのかという境界線を見極めることだろう。牧野富太郎の重婚疑惑や借金問題、三淵嘉子の複雑な継母関係、村岡花子の不倫――こうした「不都合な真実」をどう扱うかが、制作者に求められる課題と言えるかもしれない。
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