同じ中園脚本の「花子とアン」では不倫をぼかした

『赤毛のアン』の日本語翻訳者である村岡花子の半生を原案とした「花子とアン」は「あんぱん」と同じく中園ミホの脚本。このときは、大胆な史実アレンジが物議を醸した。実際の花子(吉高由里子)とその夫となった英治(鈴木亮平)の恋愛は、昼ドラのようにドロドロだった。家庭のお茶の間で見られる朝ドラの特性上、不倫を肯定的に描くわけにはいかなかったためか、苦肉の策的展開が多く見られた。

実際の花子は福音印刷合資会社の経営者で既婚者でもあった村岡儆三けいぞうと出会い、不倫の末、1919年に結婚し、村岡姓となった。「花子とアン」の原案となった『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(村岡恵理/新潮社)の記述によると、ある日、花子がきれいな百合の花をもらったときには、儆三にも「差し上げたい」と思うのだが、「あなたがお花を持ってお帰りになったら、周りの方々が妙にお思いになりはしないかと考えて、御遠慮して仕舞ひます」と書き綴るなど、不倫関係を示唆する記述が実際の手紙に残されていた。

村岡儆三・花子(翻訳家)夫妻と、5歳で早世した長男・道雄。1922年
村岡儆三・花子(翻訳家)夫妻と、5歳で早世した長男・道雄。1922年(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

ドラマでは、花子が英治に告白してから彼が既婚者であることを知る設定に変更され、さらに英治の妻が病気で死ぬ前に「新しい人と一緒に生きていってほしい」と言い残すという不倫の美化、エクスキューズがなされている。

朝ドラの視聴者、中高年女性への配慮でアレンジ

一方、2010年の「ゲゲゲの女房」は、水木しげるの妻・武良布枝の自伝エッセイを原案とした作品だが、史実アレンジが比較的少ない稀有な例といえる。見合いから5日で結婚という衝撃的なエピソードは史実通りで、貧困時代の描写も原作に忠実に描かれた。

ただし、それでも朝ドラとしての配慮は随所に見られる。極貧生活の厳しさは描かれているものの、夫婦の愛情や家族の絆が前面に押し出され、現実の苦労がやや美化されて描かれている。また、史実では水木しげるはかなり自己中心的で、家事や育児を妻に丸投げし、借金取りの対応も妊娠中の妻に任せるなどの問題行動があったとされるが、ドラマではそうした部分は大幅にマイルドに描かれている。

朝ドラの視聴者層は以前より広がっていると言えるが、それでもやはり40~60代の中高年女性が中心であるのは変わらない。こうした視聴者構造の中で、制作者は歴史に忠実であることと現代的価値観の両立という困難な課題を背負うことになる。朝の時間帯に家族で視聴されることを前提とした番組では、史実に存在する複雑な人間関係や道徳的に問題のある行動は、しばしば簡略化や美化される傾向がある。