1時間前
当日は、承認会議を意識しないようにして過ごす。その気になれば、土壇場まで情報収集や根回しに奔走することは可能だ。しかし、小林氏はあえて動かない。
「この段階で『A室長はそもそもこの企画に乗り気でない』という情報を得ても、会議に向かう足取りが重くなるだけ。モチベーションを高めるためには、直前はむしろ情報をシャットアウトしたほうがいい。ちなみに当日は、なるべく机から離れないようにしていました。トイレで出席予定者と出くわして『今日の提案だが』と指摘を受けたら、とても平常心でいられませんから(笑)」
会議が始まるのは午後1時からだ。午前中はひたすらルーティンワークに没頭して雑念を払い、心を落ち着かせる。
承認会議では、自分の案件だけでなく複数の案件が議題にのぼる。会議で案件をジャッジするのは、社長や各部門の室長の約10名。提案者は隣室に控えていて、呼ばれたら中に入って順番にプレゼンしていくという流れだ。
「部屋に入るとピリピリした空気が流れていることがあります。おそらく前の議題で紛糾したのでしょう。正直、腰が引けてしまいますが、空気に気圧されたまま話し始めても、いいプレゼンはできません。腹をくくって話し始めます」
プレゼンでは最初に、今回やりたいことを直球勝負でぶつける。
「このとき、自分の強い思いをどれだけ言葉にのせられるか。これまでの経験を振り返ると、それがプレゼンの成否を大きく左右していたように思います」
その後の説明や質疑応答は、一転して冷静に行う。
「もし何か突っ込まれたら真摯にそれを受け止めようという心情です。本番を迎えるまでに、できることをすべてやってきた自信があるときは、こうした心境になれます。逆に積み残しがあると自覚しているときはダメですね。焦りがにじみ出てしまうのか、説得力を欠いて失敗することが少なくありません」
コラボ企画の最終的な承認は、11年10月末の会議でとりつけることができた。発売まで1カ月強という、工場での製造の時間も考えるとギリギリのタイミングだったが、一発で無事にクリアできたのは事前準備を徹底したからにほかならない。小林氏は次のように語る。
「根回しは悪しき習慣のように言われますが、事前のコミュニケーション抜きに仕事は動かない。むしろ事前にどれだけ汗をかいたかで、仕事の成否は決まるのではないでしょうか」
1974年生まれ。98年、専修大学商学部卒業後、クラシエホームプロダクツ入社。「いち髪」「ナイーブ」ブランドの商品開発を経て2010年6月から現職。