「子どもに継いでほしい」という親の想い
娘しかいない父親の心境はいかなるものなのか。現代の天皇家について考える上で、その点は、実は重要である。
かくいう私も、娘しか子どもがいない父親である。もし、自分に息子がいたとしたら、今とはやはり違う心境になるのではないか。そう思うときがある。
私は長く宗教学を学び、物書きをなりわいとしている。学者の家の場合、子どもも学者になるということは少なくない。天皇家のように継承が絶対的なわけではないが、学者の親は子どもにも知的な職業に就いてほしいと望むものだ。
昔は特にそうした傾向が強かった。直接、子どもに学者の道を歩ませるようなこともあったが、優秀な弟子と娘を結婚させ、後継者とするようなこともあった。宗教学の世界では、その創始者とされる姉崎正治は娘を、戦後の宗教学界をリードする岸本英夫に嫁がせている。姉崎自身、その前任者と言える井上哲次郎の姪と結婚している。井上は、内村鑑三の不敬事件で内村を激しく攻撃したことで知られる。
もちろん、現代では、かつて宗教学の世界であったようなことは起こらなくなった。しかし、現在の私にも子どもに何かを継いでほしいという思いはあり、娘が東大を受験するときには、自分の受験の経験にもとづいて、かなりアドバイスはした。
沖縄訪問の真意とは何か
現在の天皇には、愛子内親王という娘しかいない。現在の規定では、女性が天皇になることはできないし、皇太子になることもできない。歴代の皇室において皇太子が不在のときもあったが、それは異例のことだった。現在の天皇には、弟の秋篠宮という皇嗣はいるが、皇太子はいない。今の制度では、秋篠宮が天皇に即位しない限り、その子である悠仁親王が皇太子になることはない。
こうした状況にある現在の天皇の立場は、相当に微妙なものである。しかも、国会では、皇統の恒久的な安定と皇族の確保のための議論が進んできた。結局、具体的な法案にはまとまらなかったものの、それは当事者である天皇や皇族がかかわらないまま進んでいった。
天皇の立場からすれば、そうした問題について無関心ではいられない。一般国民以上に関心を持っているはずだし、危機感はもっとも強いだろう。しかし、立場上、そうしたことについて発言することはできない。
発言は許されていなくても、行動で示すことはできる。それが、6月4日~5日に行われた、愛子内親王を伴っての天皇夫妻の沖縄訪問だったのではないだろうか。
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