※本稿は、伊藤将人『移動と階級』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
移動に困難や苦労を感じる人たちの声
移動をめぐる格差が存在する中で、実際に移動をめぐる「困難」や「苦労」を経験したことがある人はどのぐらいいるのだろうか。
全国の2949人が回答した移動に関する調査調査で明らかになったのは、約3人に1人(約36.9%)が何らかの移動をめぐる困難や苦労を経験している実態である。
自由記述の結果によると、地震や自然災害によるもの、新型コロナによるもの、居住する地域の特性による交通機関の選択肢が少ないといったものが多く挙げられたが、ほかにも回答者の具体的な経験として次のようなものがあった。少々多くなるが、重要な声なので列挙したい。
交通費を減らそうと、約10キロ歩いた
「夫が仕事ばかりなので、子どもとずっと一緒に過ごしていて、買い物や美容室に行きたいと思っても行けない」(40歳、女性、年収300万円未満)
「旅行先で子どもが体調を崩し、一人で対応しながら公共交通機関を利用して帰宅したとき。スマホなどなかったので簡単に調べることもできず、病状対応などを並行しての作業がつらかった」(51歳、女性、年収600万円以上)
「経済的な問題で他県への移動が年々難しくなっている。それが解決するまではこの状態が続く」(57歳、男性、年収300万円未満)
「(抱えている病気の影響で)移動中、移動先でタバコの煙を浴びてしまい何もできなくなってしまうから。ひたすら残念な気持ちになるし、1日に何回もこのようになると、生きていたくなくなる」(41歳、男性、年収300万~600万円未満)
「公共交通機関を使っているので、範囲が限られたり、時間が限られたりしているから。これが自動車なら、その自由の度合いは、まったく異なるものになると思うので」(53歳、男性、年収300万円未満)
「低収入のため、特急を普通に変更して長時間移動をした。また、10キロメートル程度歩いて交通費を削減した」(37歳、男性、年収300万円未満)