当たり前のことを静かに積み重ねていく

【田原】僕は総理大臣を3人、失脚させました。昔は権力というのは悪であって、こっちが突っ込めばいろいろ出てきた。でも、悪といえるほど力強かったのは中曽根康弘さんが最後。その後は突っ込んでも何も出てこなくて、失脚しちゃった。もうDISで解決できないのなら、どうすればいい?

【駒崎】現実は、悪人の秘密結社を倒せば一発で世界が変わるというものではないと思います。必要になるのは、当たり前のことを静かに積み重ねていくような地味なアプローチだと思います。

【田原】地味でいいのですか。

【駒崎】はい。一昨年、寄付税制改革があったのをご存じですか。今まで日本は寄付しにくい税制だったのですが、思い切って改革して、世界で一番寄付しやすい税制に変わりました。僕は民主党が成し遂げたほぼ唯一のすごい改革だったと思っています。ただ、この法案が通ったとき、メディアは報道しなかった。ほぼゼロです。

【田原】そんなに大事な改革なのに、どうして注目されなかったの?

【駒崎】メディアに報道されると潰されるので、あえて地味にやったのです。さっきも話に出ましたが、当時はねじれ国会。メディアに注目されると、野党である自民党はファイティングポーズを取らなければいけなくなります。

だから自民党で賛成してくれる人たちも含め、静かにやっていこうと。そうした背景があったので、法案が通ったときもメディアは騒がなかった。そのとき“拍手なき勝利”こそが本当の勝利かも、と思ったのです。

【田原】そのほうが社会を変えやすいということですか。

【駒崎】世の中を変える勝利というと、僕らは得てして「バーン、ドッカーン、どうだ」と、ローマの凱旋式みたいな派手な勝利を思い浮かべます。しかし実際に僕が経験した歴史的改革は、そうじゃなかった。

世の中を変える一歩というのは、誰にも注目されず、拍手すらされません。でも、それでいいのです。たぶん気がついたらいつのまにか、するっと変わっているという変わり方が、日本社会に大きな変化をもたらす気がします。