部下を趣味のサウナに誘ってみると…
こうして、みんなが笑顔で楽しむ姿に手応えを感じていたのですが、その中に、お酒を飲まずに隅に座っている子が一人。
同じチームの頭脳明晰でクールな若手社員です。ここでは彼のことを「シャイ君」と呼びますね。
シャイ君はお酒が苦手でした。飲み会には来てくれましたが、みんなと飲んで騒ぐタイプでもない。また、普段の仕事も着実にやってくれるものの、どこか受け身のようにも見えました。
もしかしたら、チームに馴染めてないのではないか。そもそも、シャイ君は仕事を楽しめているのかな……。
彼との距離を縮めるネタがないか、ずっと探していたある日のこと。日課のサウナに行こうとしたタイミングで、私は思い立ちました。
「シャイ君、このあと『スカイスパ』っていうサウナに行くけど、一緒に行く?」
「えっ……行きたいです」
それぞれがサウナを楽しみ、レストランで一緒にご飯を食べていると、いつもより自然と会話が続いていました。
「ここ、チゲ鍋が人気なんだよね。あとサウナもいいけど、その前にアカスリするとめっちゃ気持ちいいよ」
「肌、痛くないんですか?」
「意外と調整してもらえるから大丈夫だよ」
心理的な距離がグッと縮まった
シャイ君の表情はどことなくほぐれ、笑顔がとても増えていました。
そして私がなにを言うわけでもなく、シャイ君は自分のことを話し始めてくれたのです。
「川田さん。最近、実は僕、好きな子ができまして……」
私はシャイ君の話を聞きながら、心底驚いていました。
(あの受け身のシャイ君が……。いま、なにが起きてるんだろう?)
私にとってこれまでサウナとは、リラックスやリフレッシュ、つまり自分自身のためにありました。ですが、シャイ君とのサウナで、私は大きな発見をしてしまったのです。
「一緒にサウナに行くと、相手は自然と心を開いてくれる」と。
翌日、会社でシャイ君に会うと、彼の様子がいつもと違います。
「川田さん、昨日はありがとうございました! スカイスパのサウナ、気持ちよかったです。僕、また一緒にサウナ行きたいです」
満面の笑みを浮かべるシャイ君から、私は次のことに気がつきました。一つ目は一度心を開いてくれると、心理的な距離がグッと近くなること。
そしてもう一つは、いままで自分一人のライフワークだったサウナを、仕事の領域とまぜてみてもいいんじゃないか、ということ。
私は思いました。この経験をもっと持続させていったら、めちゃくちゃ面白いことになるんじゃないか―。
2016年。私とシャイ君ともう一人で、コクヨサウナ部はまずサークルとして静かに産声をあげました。