経験したことは全部生きてくる

【横田】その言葉を受け止めて自分のものにされた。まさしく今回のWBC優勝で夢が正夢になり、花が開いて野球の歴史に名を刻むことになったわけですが、選手として苦労された体験もすべて名監督を生む土壌になっているんでしょうね。

野球のグラウンド上にある野球のボール
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【栗山】いやいや、僕は名監督じゃないです。ただ、今考えるとメニエール病で野球ができなくなったり、そういう経験が全部生きているというか、大きくプラスになった感じがします。命までは取られないんだからなんとかなる。そう思って前進してきました。

【横田】監督は「たくさんの選手に接してきて分かったことは、人は絶対に変われる、ということです」とおっしゃっていますね。これは今思うようにゆかなくて苦しんでいる人にとっては勇気の出るメッセージではないでしょうか。

【栗山】仏教の世界でもそうだと思うのですが、すべてのものは変わり続けますよね。そのことをちゃんと理解して前に進むかどうかによって、結果というものが大きく変わってくるのかなと思うんです。

“指導者”は上から手を差し伸べようとしてはダメ

【横田】私は35歳から修行僧を指導する役目を仰せつかりましたが、その当時は先代がまだ現役の管長で、その下で若い雲水うんすい(禅宗の修行僧を指す言葉)たちの指導をすることになったんです。私などは禅の世界で生きるために自分で努力をしてやってきたのですけれど、雲水たちは皆がそういうわけではなく、お寺の跡取りで本当に何も知らずに来た子もいます。

すると、最初の段階ですでに随分差がございましてね。それを指導するようになると、先代の前でつい愚痴を口にすることがございました。「この頃の修行僧はこんなことも知らないんですよ」と先代に言うと、案の定怒られてしまいました。

そのとき、先代がこう言ったんです。「倒れた人を起こすにはどうする? 上から手を差し伸べようとしたってダメだぞ」と。普通であれば、倒れている人に手を差し伸べて引っ張り上げればいいと考えるところですけれど、それではダメだと言うんです。

【栗山】そういうときはどうすればいいんですか?