懇切丁寧に教えるだけでは、人は育たない

ですから、常に自分で考えて自分でやることが習慣になっていて、それがああいう選手をつくり上げたということでしょうね。子供のときから、できるだけ自分で考えて失敗する、自分で考えて成功する。そういう経験をたくさんさせてあげる必要があるというのが、僕が彼から得た学びですね。

【横田】禅に「教壊」という言葉があるんです。『鈴木大拙一日一言』(致知出版社)にはこう説かれています。「禅の言葉に『教壊』というのがある。これは、教育で却って人間が損なわれるの義である。物知り顔になって、その実、内面の空虚なものの多く出るのは、誠に教育の弊であると謂わなくてはならぬ」

もちろん懇切丁寧に教えることも時には必要でしょう。特に最近はそうしないとついてこられない人が多くなりました。しかし、それだけで人は育たないと思います。先にも申し上げたように、自主性というのはその人の中から内発的に湧き出てくるものでなければなりませんので、何も手出しをせずにただ待つしかない。

そして指導する側はただ見出していけばいいんです。それゆえ、教える側は目を曇らせてはいけないし、教えて壊すことをしてはいけない。この両面が不可欠なのではないかということですね。そう考えると、今の教育は子供に一律に教え込もうとして素質を潰しているような面があるんじゃないかという気もしますね。

聖夜にもバッティング練習をしていた

【栗山】翔平は人に教えないんですよ。皆、彼に教わりたいから聞きに行くじゃないですか。でも、自分と人は違うので、自分のオリジナリティをつくったほうがいいと翔平は思っているんですね。人に教わると違う方向に行ってしまうし、体つきも能力も違うから、人と同じようにやっちゃうと壊れる可能性があるということだろうと思います。

【横田】以前、栗山監督に見せてもらって驚いたのは、大谷選手がバッティング練習をしている映像です。何に驚いたかというと、その日付ですよ。2016年12月24日午前1時、その年、ファイターズは日本一になっています。

日本一になるといろいろな祝賀行事があって、ようやくクリスマスの頃になると落ち着き、家族や友人と過ごしたりするんでしょうけれど、彼は夜中の1時にバッティング練習をしている。ああ、なるほど、こういうところが違うんだと思いました。チームメイトと食事をしたりお酒を飲んだり、それは何が楽しいんですかと大谷さんは言うそうですね。

バッティングセンターで練習する人
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【栗山】そういうことに時間を使うよりも、練習したり睡眠を取ったり、最大限のパフォーマンスを発揮できるように準備して、5万人の観客を沸き立たせる喜びのほうが遥かに大きい。だから、今は遊んでいるときじゃないと。