大谷翔平は“自主性”の持ち主
たとえれば、天然か養殖の違いです。一つひとつカリキュラムを与えて教えたとしても、それは自分が教えたものですから自分以上のものにはならない。しかし、組織にはそういう人材がたくさん必要です。そういう人材がいないと組織は成り立ちません。
だから一つひとつ丁寧に教えて、言われたことを忠実に実行できるという人も必要なのですが、同時に、「勝手にやってくれ」と言って任せる部分がないと本当に自主性のある人が育ちません。言われたことしかできない人ばかりでは、組織は弱っていくだけで将来の展望も描けませんよね。
栗山監督のお話を聞いていると、大谷翔平さんというのはそういう自主性の持ち主のように思えますね。もちろん栗山監督の影響は大きいのでしょうが、誰かが教えて大谷翔平をつくったというのではないように感じます。
【栗山】その通りです。翔平に僕は何もしていないですね。
【横田】やはり自ら考えて自らやるべき課題を見つけてやっているのですか?
【栗山】はい、もう全部自分で。たぶん誰にも教わっていないと思います。
【横田】そうでしょうね。禅の世界でも、禅を次の世代に伝えていくような人物は、誰かが教えたわけではなくして自分でやって来て、「とてもじゃないがこいつには敵わないな」という人物になっています。だから、そういう人が来るのを待て、という教えがあるんです。こういうことが伝えられているものでございますから、先代からは「30年、1人の人材を待て」と、こう教えられました(笑)。
【栗山】ああ、そういうものなんですね。
大谷は自分で考え、自分で答えを出してきた
【横田】だから大谷さんの話を聞いていると、そういう人はもう誰かが教え込んで、こう練習してこうやれというのとはレベルが違うんですね。そういう人が野球界を引っ張っていくのでしょう。
でも、大勢の人たちには少年野球から野球の喜びを教えてあげることも大事ですよね。そういう人たちが野球界を支えていくのでしょう。この2つがどうしても必要なんじゃないでしょうかしらね。これは禅の世界から見て思うことですが、監督は大谷さんを身近で見ていてどう思われますか。大谷翔平はなぜ世界の大谷翔平になったのか。
【栗山】いやいや、管長が今おっしゃったことは僕が感じていることそのものです。整理していただいてありがとうございます。確かに翔平はそういう人材なのだと思います。もちろんご先祖様からの遺伝子がうまく組み重なって、あれだけの体格と能力が生まれているのは事実ですけれど、僕が彼を見て思っているのは「自分で考えて自分で答えを出してきた」ということです。
僕は、自分で考えてやったことしか失敗したときにプラスにならないという話をよくするんです。人から言われたことを鵜呑みにしてやっていると、うまくいかなかったときに本質的に自分のせいにならないので進み方が遅いんです。翔平もそういう感覚を持っていると思います。二刀流という前例のないことに挑戦するに当たっても、練習メニューを最後は全部自分で考えなきゃいけないわけですからね。