トヨタで学んだ「言葉の解像度を上げる」

近年のビジネス書の世界では「言語化」や「解像度」をテーマにした本が多数出版され、ベストセラーにもなっています。

その理由について、「氷河期世代のビジネスパーソンが管理職世代になってきたから」と私は捉えています。

上司から降りてくる曖昧な指示について、「部下が納得するレベルで言葉にできる力」を求めている。

本人はそのようなコミュニケーションを見せてもらう機会が非常に少なかったわけですから、このようなニーズが顕在化してくるのは当然の帰結と言えるでしょう。

幸いにして、私自身は当時最終的にトヨタ自動車から内定をもらうことができました。入社してから半年間にわたる新入社員研修を受け、配属後も上司や先輩社員から様々な人材育成的な指導(OJT)を受けることができました。

トヨタには「教え、教えられる」文化といった社内用語があるくらい、このような人材育成的な働き方が定着しています。親身になって教えてくれる諸先輩が、日常的に数多くいる職場環境だったのです。

そこで、同社で得た学びを社会に還元したい、特に悩める同世代の役に立ちたいという想いから編み出したのが、たった1枚「紙に書く」だけで、曖昧な指示や表現の「言葉の解像度を上げる」手法です。

プリントアウトしたグラフに書き込みながらアイデア出し中の二人のビジネスマン
写真=iStock.com/Dacharlie
※写真はイメージです

「優先順位をつける」とはどういうことか

1つ例を紹介します。たとえば上司から、「もっと効率的に働いて課全体の残業を減らしてほしい」「ちゃんと優先順位をつけて進めるように」「あれもこれもとならないように取捨選択してね」といった指示を受けたとしましょう。

個人レベルでは、長年の経験から「なんとなくこうすればいいかな」といったことが見えてくるかもしれません。

ところが、この指示を「自分だけでなく部下にも共有する」となると、途端に困ってしまうのではないでしょうか。

前述の通り、「優先順位って具体的にどうやってつけるんですか」と言われてしまうだけですし、「そんなの自分で考えろ」と一蹴できるような時代でもありません。

実はこの話、冒頭で登場してもらったAさんからの相談内容の1つでした。

私はAさんに、「次のように紙に書きだして、優先順位のつけ方を部下にそのまま見せてください」と伝えました。