2028年への「布石」として重要なもの
例えば、インフレ抑制や雇用創出といった経済面で庶民生活を向上させる実績や不法移民の流入抑止、犯罪減少といった安全面での成果が求められる。ヴァンス氏がこれらを副大統領の立場でどこまで主導できるかは未知数だが、2028年への布石として重要な意味を持つ。
第二に、「トランプ大統領との関係維持」もカギとなる。歴代政権を見ると、しばしば副大統領は次期大統領選の有力候補となる一方、現職大統領との距離感が難しい問題になる。現時点でヴァンス氏はトランプ路線に全面的に忠実であり、政策的な不一致も表面化していないが、トランプ氏はみずからの影響力を保ち続けることに長けた人物であり、ヴァンス氏が将来ひとり立ちする際に、その支持基盤をどこまで引き継げるかは不透明だ。
トランプ大統領の右腕としての4年間で、ヴァンス氏がどこまで実績を残し求心力を高められるか。それが2028年以降の米国政治、そして世界の行方を占う上で極めて重要になることは間違いないだろう。
米国にとって「リスク」となる可能性も
ただし、ヴァンス氏の「反エリート主義への偏り」「自己責任論の過度な強調」「国際問題に対する孤立主義的アプローチ」といった方針は、米国にとってリスクにもなり得るものだ。
国家のリーダーである以上、本来であれば、さまざまな価値観が違う人たちや集団の調整を図るために壮大なビジョンを提示することが必要だ。しかし、ヴァンス氏には自分たちと異なる価値観の人々を巻き込むつもりはほとんどない。
経営学などの多くの理論や実践において、多様性がある集団のほうがより高いパフォーマンスを発揮できるということが実証的に示されている。こうした中で、自分たちの価値観だけを重視して他を排除するというやり方、つまり「競争の回避」は、長期的に見て米国の国際的競争力を低下させかねないのではないだろうか。
また、発足からの数カ月で、トランプ政権の政策の「ボラティリティ(変動率)」が一段と高くなっているように感じる。例えば、実業家のイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」のように、成功すれば米国全体に対して大きな価値をもたらす可能性があるが、失敗すれば世界規模の混乱が生じかねない。
トランプ大統領とJ.D.ヴァンス副大統領の政権運営は、メリットとデメリットの両面から注意深く見ていく必要があり、今後も目が離せない状況だ。