「21世紀の発言とは信じがたい」と困惑する声

また、前述のミュンヘン安全保障会議では、欧州各国の首脳を厳しい言葉で批判すると同時に、NATO加盟国には防衛費の一層の拡大を要求。欧州側の負担増によって米国は東アジア(中国を念頭に置いたインド太平洋)の課題に注力できるとの考えを示した。これは、欧州防衛のコストを欧州自身に再分担させ、米国は中国への対応に戦略資源を振り向けるという大きな方針転換を示唆するものである。

このようなヴァンス氏の主張は、同盟国に自己改革と責任分担を迫る一方で、米国の国益に沿わない国際関与は抑制するという明確なメッセージである。実際、ミュンヘン会議の聴衆はこの米副大統領の容赦ない批判に静まり返り、NATO元大使のイヴォ・ダールダー氏からは「21世紀の米副大統領の発言とは信じがたい」といった困惑の声が上がったほどだ。

一方で、米国内のトランプ支持層はこうした毅然とした物言いを「アメリカの利益を代弁した」として評価している。労働者階級の代弁者を自任し、エリート批判を唱える姿勢、トランプ流の「アメリカ第一主義」を体現した外交姿勢は、過激との批判を招きつつも確実に支持者の心を捉えているのだ。

総合的に見て、J.D.ヴァンス副大統領の登場は米国政界における「保守ポピュリズム」の新たなフェーズを象徴していると言えよう。

第50代米国副大統領として宣誓をするヴァンス氏
第50代米国副大統領として宣誓をするヴァンス氏(写真=米国副大統領府/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons

ヴァンス氏は「次の大統領」になるのか

最後に、もうひとつ見逃せないのは、ヴァンス氏が「トランプ後」を見据えた次世代リーダーとして台頭している点である。

就任時わずか39歳という若さであった副大統領は、2028年の大統領選挙の有力候補になるとの見方がすでにささやかれている。トランプ大統領自身、再任期中にヴァンス氏を副大統領として実務経験を積ませることで、将来の保守派ポピュリストの後継者として育成する意図があるとも言われる。ヴァンス氏にとっても、トランプ政権での4年間は自身の政治的力量を示し全国区の知名度と評価を確立する絶好の機会である。

ヴァンス氏が2028年を見据える上では、2つの課題が存在する。

第一に挙げられるのは「支持基盤の拡大」だ。現在のヴァンス氏は主に熱心なトランプ支持層に支えられており、これ自体は大統領選における原動力となるが、一般選挙で勝利するには無党派層や中道層へのアピールが欠かせない。副大統領就任当初、懸念された「忠誠心偏重による中間層軽視」という指摘を克服し、より幅広い有権者から信頼を得るためには、挑発的なレトリックだけでなく政策面での具体的成果を示す必要があるだろう。