期待された「過激な代弁者」としての役割
最終的にトランプ氏は39歳と若くエネルギッシュな新人、ヴァンス上院議員を副大統領に指名した。背景には、トランプ氏が何よりもヴァンス氏の忠誠心と、みずからの支持基盤(MAGA層)へのより一層のアピールを重視したことがある。
また、トランプ氏はヴァンス氏に「ハードライナー」としての役割を期待したと考えられる。ハードライナーとは、交渉時に一番厳しい発言をする人のことを指す。ヴァンス氏は強硬な発言や姿勢をとることで、トランプ氏が言いにくいことを代わりに言う「代弁者」としての役割を果たした。特に、移民問題や社会的価値観に関してトランプ氏の立場をさらに強調し、過激な発言をくり返すことで彼の支持層の中での存在感を強めた。
ヴァンス氏は、トランプ氏の忠実な支持者であり、労働者階級の代表、新しい世代のリーダーとして、また、強硬な発言をするハードライナーとしても適任だったのだ。
そして、副大統領に選ばれた理由が、まさに冒頭で述べたような欧州やウクライナのゼレンスキー大統領に対する彼の言動に表れている。

「他国の支援より国内に目を向けるべき」という信念
副大統領となったヴァンス氏の外交・安全保障スタンスは、一貫してトランプ氏の掲げる「アメリカ第一主義」に根ざしている。その特徴は、米国が他国の問題に過度に関与することへの強い懐疑心と、自国の利益を最優先する現実主義的姿勢である。
この背景には、『ヒルビリー・エレジー』に書かれているような国内の困窮状況があるにもかかわらず他国の支援などすべきではないというヴァンス氏の信念、そして自己責任を重視し、他者依存からの脱却を求める彼の価値観があると考えられる。
ウクライナ戦争への対応が象徴的だ。それは、前述したゼレンスキー大統領との激しい対立だけではない。ヴァンス氏は上院議員時代からウクライナへの巨額支援に批判的であり、「戦争の終わりが見えず、米国にとって良い方向に進んでいない」として戦略なき支援継続に疑問を呈していた。また、「何もしないで欧州諸国に補助金を出すようなものだ」と述べ、米国が負担を背負い欧州に頼られる現状を批判している。こうした姿勢は「同盟国にももっと責任を負わせるべきだ」という信条に基づく。