既定路線への疑問…見つけた「リヤカー販売」という希望

大学を辞めた後、契約社員として広島市にある携帯電話を販売するイベント会社に派遣され、自立の道を模索した。催事で携帯電話を売る仕事は楽しかったが、一つの店舗に常駐する仕事は苦痛で仕方がなかったという。

「全員が付けているインカム越しに上司から嫌味を言われたり、些細なことで怒鳴られたりしたこともありました。売り上げに貢献すれば喜ばれると思ったんですけど、逆に白い目で見られてしまって。『頑張っても意味ないや』って思っちゃったんです」

接客で笑顔を作ることさえ辛く感じたある日、ふと、母から言われたことを思い出した。

「あなたは自分で仕事をする方が向いているよ」

彼女も以前から「誰もしていないことに挑戦したい」「両親のように飲食店をしてみたい」と思っていた。会社員という既定路線への疑問、人間関係への苛立ち……。彼女は母の言葉を信じた。

上司に「うまくいくはずがない」と笑われた

ただ、「1人でできる仕事」は思ったよりも少なかった。悶々としながらSNSを眺めていると、福岡県でわらび餅をリヤカーで販売する投稿を見つけた。

「これなら、1人でできるかも!」

さっそく果穂さんは、リヤカーでわらび餅を販売する構想を練る。「どこで売るか?」と考えた時、頭に思い浮かんだのは地元・広島だった。

2012年頃、観光PRとして話題を集めた「おしい! 広島」というキャッチコピーがある。「原爆ドーム」「お好み焼き」「もみじまんしゅう」など観光資源が豊富な広島だが、それ以外はあまり知られていないことを自虐的に表したフレーズだ。果穂さんは、地元の人間として「惜しいって、なんだかな」とモヤモヤを感じていた。

「リヤカーを引いて歩いたら、広島が活気づくかもしれない……」

そう思った彼女は、A4サイズのノートに起業に向けての情報を書き留めていった。

2023年の12月、契約社員として勤務していた会社を退職。「リヤカーで飲食販売をするので辞めます」と伝えると、上司に「うまくいくはずがない」と笑われた。果穂さんは心の中で「絶対成功するぞ」と、一層決意を固めた。

リヤカーの準備
筆者撮影
リヤカーの準備

クラウドキッチンに着目

果穂さんが社会に出てモヤモヤを抱えていた2020年頃、広島市中区富士見町にシェア型クラウドキッチン「ホーミーズキッチン」が立ち上がっていた。同社の代表・小南慶次郎さんは「コロナ禍の情勢を受けてのことでした」と語る。

7室あるクラウドキッチンに6店が入居中
筆者撮影
8室あるクラウドキッチンに7店が入居中

「その頃、アメリカでキッチンをシェアして運営するゴーストレストランがあると知りました。広島ではまだクラウドキッチンがなく、Wolt(デリバリーサービスのアプリ)が導入されるニュースも流れていて、『これはもうやるしかない!』って思ったんです」