1日3個…公園でひっそり売る日々
それまでおむすびについての知識がなかった果穂さんだが、お米の炊き方や具材の組み合わせ、握り方などを手探りで研究した。お米は地元にある米農家から仕入れ、具材は惜しみなく使うことにこだわった。「これだ!」と思うものに辿り着くまで、半年を要した。
2024年3月23日、屋号をおむすび屋台「That's rice」と名付け、プレオープン。まずは広島市内にある本通りや大手町、平和公園辺りを周って販売しようと計画。だが、その日は3個しか売れず、さらには移動中にリヤカーが壊れるというハプニングにも見舞われた。
※編註:初出時、プレオープンを2023年3月としていましたが、2024年3月の誤りでした。訂正します。(2025年3月22日13時50分追記)
取材の日、ホーミーズキッチンに来ていた果穂さんの母が、その日のことを教えてくれた。
「どんなもんかなと思って、後をついて行ったんです。そしたら、リヤカーの取っ手が外れて横転してて……。周りの人にすごく見られて、本人も恥ずかしいっていうのがあったんでしょうね。車で迎えに行くと、助手席で泣いていました。でもね、私も夫も、『続けることが大事だよ』って伝えました。『商売っていうのは、すぐにうまくいくもんじゃない。何カ月も、もしかしたら何年も苦労することが当たり前だよ』って」
両親から背中を押されたものの、果穂さんはしばらく自信が持てず、公園の片隅でひっそりと売った。
食材の原価や賃料、水道光熱費などがかさみ、気が付けば200万円の赤字。売り上げも少なく、自由に使えるお金もない。考えたくなくても、前職で否定的な言葉を投げかけられた記憶がフラッシュバックしてしまう……。惨めな気持ちを抱えながら、修理したリヤカーでおむすびを売り続けた。
転機となったYouTube
2024年11月、飲食店を撮影しているYouTubeチャンネルに取り上げられた。その動画が2カ月で450万回以上の再生数を記録。それをきっかけに多数のメディアから取材を受けるようになり、果穂さんは地元のみならず“話題の人”になった。
※編註:初出時、YouTubeチャンネルに取り上げられた時期を2023年11月としていましたが、2024年11月の誤りでした。訂正します。(2025年3月22日13時50分追記)
ここから果穂さんの環境は一気に好転する。900人ほどだったSNSのフォロワーは10倍に。おむすびの販売数は1日120個を超えた。3個しか売れなかった頃が嘘のようだった。
忙しくなったからといって、提供する商品の品質を下げたくない。以前は朝7時頃からおむすびを仕込んでいたが、どんどん時間が早まり、太陽が昇る前から始めるようになった。「もっと効率的にしなくちゃとは思うんですけどね。でも最近、おむすびを作る速度が上がりました」と果穂さんは言う。
「いったい、いつ休んでいるのだろう?」と心配になるが、現在は月・火曜を定休日に。休日を具材の仕込みに充てる日はあるものの、1週間のうち1日はしっかり休むようにしているという。
おむすびについて語る彼女は、経営者の顔だ。
「原価率は、なるべく4割に収めるようにしてて。だし巻き明太子のような人気メニューは利益が出にくいけど、あえて出します。逆に利益が出やすい梅のおむすびはコンビニでも買えるし、出す意味あるんじゃろうかと思ったけど、さっぱり系のものとがっつり系のものを合わせて買うお客さんが多いから、どちらも出す意味があるんです」