若さや見た目に注目するコメントが怖かった
果穂さんの事業は上り調子となったが、反響ゆえの代償もあった。
自分を知ってもらうきっかけを作ってくれたメディアをありがたいと思う反面、「おにぎり美人」と紹介されることに戸惑うこともあった。
「ネットでの書き込みのほとんどが応援のメッセージだけど、『若いから注目されてる』みたいなネガティブなコメントもあって、正直怖いって思いました」
通りすがりにひどい言葉を受けることもあった。男性2人組がやって来て、「どうせ宗教の勧誘をするために、若い女の子が雇われているんでしょ?」と言われた時は、果穂さんは悲しさと悔しさが一気にこみ上げたという。
彼女は常連客に現在地を伝えるため、販売をしているところをInstagramでライブ配信しているのだが、「実は、自衛の意味もあるんです」と教えてくれた。
以前、買う気がない男性に追いかけられることがあった。リヤカーに三脚を付けてライブ配信をしていることに気が付くと、その人は何も言わずに去っていったそうだ。
「食べてもらえば、きっとわかってもらえる」
見知らぬ人たちから心無い言葉を投げつけられるストレスは、計り知れない。だが、果穂さんは「辞めよう」とは思わなかった。
「ネットで『3年後はどうなるかわかんないね』みたいなことが書いてあったり、道行く人に『かわいそうにね』って言われたりすることもあって、悔しかったです。そういう意見もあるから、『やってやる!』って思います」
「内向的だった」という果穂さんは、かつての彼女ではなかった。「ホーミーズキッチンの先輩たちや、応援してくれる常連さんたちがいてくれたからです」と果穂さんは言う。
「最初の頃は、フォローしてくれたら割引するとか、SNSに広告を出すとかした方がいいのかなって思ったんです。でも、クラウドキッチンの出店経験がある経営者さんに相談した時、『それよりも、どれだけ美味しいものを作るか、いかにお客さんを楽しませるかが大事だよ。払いたいって思ってくれる本当のお客さんを増やさなくちゃ』って言われて。自分の考えを改めるきっかけになりました」
広島市で美容サロンを営む30代の女性は、彼女のおむすびを気に入り、たくさん買っては周りの人に配って紹介してくれた。その人から「美味しいからまた買うね」と言われたことが、果穂さんは心の底から嬉しかったという。
また、批判的な言葉をかけてきた客から、「失礼な態度を取ってごめんなさい。すごく美味しかったです」とダイレクトメッセージ(DM)が来たこともあった。
「認めてもらえるようなおむすびを作って、接客を大切にしていれば、きっとわかってもらえる」
彼女はそう思い、暑い日も寒い日もリヤカーでおむすびを売り続けてきたのだ。