一流はヘアカットにいくらかけるのか

とはいえ、今回のお話は「高価格帯は正義で、安売りは悪」といった二元論で一蹴したいわけではありません。

1000円でも、3000円でも、6000円でも、1万円でも、それぞれの運営スタイルを考えれば、妥当な価格設定だと言えます。

ですが、一流のビジネスパーソンはどちらを選ぶべきでしょうか。

以前にも、岸田文雄首相(当時)の散髪が多いと話題になりました(時事通信社〈岸田首相の散髪、なぜ多い? 年24回、安倍・菅氏の2倍【政界Web】〉)。一国の首相の身だしなみへの気配りには納得です。そして「散髪にランニングコストを意識していた」という旨は、適切な金銭感覚をお持ちのように見えますし、多くの方は好感を持ったのではないでしょうか。

一美容師としては、美容室選びに「上質」を求めるなら「高価格帯の美容室」を選ぶことをオススメしています。

理由は、価格帯の違いによって、美容師側の精神的・体力的負担は大きく変化するからです。

低価格帯の美容師は、次から次に押し寄せる仕事を終わらせるために作業の手を早める場面が多くなりやすく、美容師によっては精彩を欠く場面が増えてしまうのです。

さらに高価格帯の場合、常連の方ほどフォローが手厚くなります。

低価格帯の場合「2回目の来店」をしても、カルテを書き残していなければ内容が引き継がれず、場当たり的な対応になりやすくなります。

そのため岸田首相よろしく、ご自身の許容範囲内の料金で「高価格帯」を選択するほうが、快適に過ごしやすくなると言えます。

参院予算委に出席した岸田首相=2023年10月31日
写真=共同通信社
髪を触る岸田文雄首相(※当時)=2023年10月31日

健全な運営をするための「適正価格」とは

以前から、「日本のカット料金は欧米の主要国に比べて安い」と言われています。筆者個人も、6000円が美容師にとって健全な運営をするための適正価格だと考えています。

「安い、早い、美味い」は義理人情の日本文化の賜物ですが、個人的にはカットを安売りすることは良いこととは思っていません。

なぜなら、カットにおいては「省ける部分」が少ないからです。

例えば料理人は、万全の「仕込み」をしておけば、営業中の作業は最低限で済みます。牛丼チェーンなら、盛りつけた丼をお客様に提供するだけです。

ですが、このような「仕込み」はカットにはできません。お客様と相対して、オーダーを聞いて、髪を切る。1000円カット以上に簡略化することは元々「無理ゲー」で、タイムアタックのように作業を早めるしか方法は無い。消費者にとっては便利ですが、いささかウェルビーイングとは言えない運営なのです。

現場の美容師は、1000円でも6000円でもその場の最善を尽くしています。ですが時間に追われる美容師ほど、日々に忙殺されて、この“いびつさ”に気が付いていないところがあります。

美容室料金の今後は、「今までが安過ぎた」と言われる類の一つではないかと思いますし、人が手を掛ける職人作業ですから、インフレに応じて見直されていくものだと認識しています。

美容師は皆、喜んで帰るお客様の姿が見たいだけなのです。

どんな働き方であっても、美容師が仕事に対する真っ当な対価を得て、お客様も豊かな生活を送れるようになることを、願ってやみません。

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