無断で映されたのは加害者側でなく、伊藤氏の協力者や支援者

だから一般的には首を傾げるような手法を使っていても、優れた作品と見なされてきたドキュメンタリー映画は多い。しかし『Black Box Diaries』が独特なのは、無断撮影や無断録音の対象が前述の作品に見られるような加害者側や権力側ではなく、伊藤氏の協力者や支援者側だったことだ。

例えばその中には、タクシー運転手、ドアマン、刑事、メディアで働く女性が集まった会合の参加者、そして代理人弁護士の一人だった西廣陽子氏の映像や音声が含まれる。タクシー運転手は伊藤氏と山口氏をホテルまで乗せた時のこと、ドアマンはホテルの入り口でそのタクシーを迎えた時のこと、そして西廣氏はドアマンの証言を裁判でどう扱うかについて、それぞれ伊藤氏に話すところなどが使われている。彼らは伊藤氏に敵対しておらず、協力関係にある。

映画賞「BAFTA Film Awards in London」に参加した伊藤詩織氏、イギリス、2025年2月26日
写真提供=© Fred Duval/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
映画賞「BAFTA Film Awards in London」に参加した伊藤詩織氏、イギリス、2025年2月26日

元弁護士は「自分が伊藤さんの意向を拒否したように描かれた」

中でもドアマンは「会社から言われても証言しようと思うし、自分の名前を出してもいい」とまで話している。ただ、この会話自体が録音されていること、自分の言葉が全世界に公開されることは承諾していたのだろうか。他の出演者についても同じことが言える。もしかしたら、「映画を見て初めて、伊藤氏と自分の会話が何年も前から無断で録音されていたと知った」と会見で語った西廣弁護士と同じ状況に置かれているかもしれない。これは個人が特定されないよう、顔の部分をカットしたり、姿形にぼかしを入れたり、ボイスチェンジャーを使って声を加工したりするのとは、また別の話だ。