日本は「被害者を逃す」一辺倒で中途半端

多くの先進国ではDVを社会の問題ととらえ、1990年前後から男性から女性への暴力に対する対策に取り組んできた。被害者支援や予防教育にも手厚い体制を敷いている国が多い。

アメリカでは、まずは加害が疑われる人間を逮捕するが、その後双方の言い分を聞いて、専門的知識を持つ裁判官が判断することになる。相当数のDV裁判所も設置されていて、DVに関わる裁判官、検察官、警察官はトレーニングを受け、専門知識を身につけることになる。

フランスの通信社AFPなどによると、フランスでは2020年9月より、DV加害者にGPS機能がついた足輪を足首に着用することを命じる選択肢が裁判所に与えられるようになったという。この足輪をつけた加害者が、被害者から一定の距離内に近づいた場合、被害者と警察の両方に通報される仕組みになっている。その背景には、年間100人以上の女性がDVを受けて死亡しているという現実がある。

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の警察が2024年5月15日から4日間にわたるDVの一斉捜査で、554人を逮捕したという記事が、朝日新聞デジタルなどで掲載された。オーストラリアでは同年初めから一斉捜査の日までに、すでに28人もの女性が暴力を受けて死亡していた。アルバニージー首相はこうした状況を「国家的な危機」と述べ、DV加害者から避難する女性への助成を拡充すると発表した。

被害者に女性が多いことは現在も変わらないが、近年では女性から男性への暴力も増えてきている。「ビッグイシュー・オンライン」(2020年11月26日付)によると、スイスでは被害者の4人に1人が男性であり、男性被害者向けのシェルターもあるという。

一方、日本の場合は「被害者を逃す」支援一辺倒で止まっていて、裁判官も専門的にトレーニングされているとは言い難い。被害者から見れば加害者対応が甘く、加害者とされた人からみれば濡れ衣にしか思えず、施策の中途半端感は否めない。

DV理解が浅い政治家、弁護士、裁判官、警察官

「DV相談窓口に来た件数のうち、保護命令まで行ったケースは100件に1件ぐらいしかない。だから、相談のうちの99%はでっちあげなんです」

これは、2024年2月の衆議院予算委員会でE議員が質疑の際に言い放った言葉である。

しかし、DV相談に来た人が皆、ただちにシェルターの入所を希望するわけでもないし、保護命令を申告するわけではない。相談の内容には幅があり、子どものことや経済面を考え、最終的には耐える結婚生活を選ぶ人もいる。

同年4月からは精神的暴力でも保護命令を申告できるようになったが、それまでは「身体的暴力または生命・身体に対する脅迫」に限定されていた。だから、E議員が発言した2月の時点では、よほど身体的に危険な場合のみ保護命令が出ていたわけで、“DVイコール保護命令”ではない。「99%はでっちあげ」は、勉強不足ゆえの乱暴な見解と言える。