野放しの加害者がDVを繰り返す

「前妻にも2度目の妻にもDVをでっちあげられて逃げられた!」

これは、たまたま目にしたSNSの投稿なのだが、同じことが2度起きても、「もしかして自分のしていることはDVなのでは?」という疑問も湧かないようだ。

第2回にも登場したD子さんは、離婚歴のある彼から、「前妻は男をつくって出て行き、行方もわからない」と聞かされていた。しかし、結婚するとモラハラを受けるようになり、前妻はうつ病を患って入院していたことがわかったという。

「前妻さんも、うつになるほど追い詰められたのだと思います」と、その後離婚したD子さんは語る。

また、モラハラ問題の研究、執筆、相談業務に32年間携わってきた谷本恵美さんによれば、「長いこと、この仕事をしていると、ある妻が夫のモラハラに悩んで相談に来られ、その数年後、別の妻が……。よくよく話を聞くと、夫が同じ人であることに気づく、といった事例は、1件や2件ではない」という。

これらの話を聞いて、「本当に野放しなんだなあ」と思ったものだ。

スウェーデンでは「DV罪」創設

2017年、日本では強姦罪から強制性交等罪に名称を変えて、「加害者は男性、被害者は女性」という概念を取り払った(さらに2023年には不同意性交等罪に変更)が、スウェーデンの事情に詳しい矢野恵美・琉球大学法科大学院教授によると、スウェーデンではすでに1984年、すべての法律においてジェンダー・ニュートラル化が行われたという。

琉球大学法科大学院教授の矢野恵美さん
琉球大学法科大学院教授の矢野恵美さん(写真=本人提供)

その14年後の1998年、スウェーデンでは新たにDV罪が創設された。刑法第4章第4条a第1項の条文を要約すると、「親しい間柄にある(あった)者への継続する暴力(身体的暴力に限らない)に対して、6カ月以上6年以下の拘禁刑が科される」というものだ。

そして、第2項にはまったく同じ内容でありながら、「親しい間柄にある(あった)男性から女性に対する暴力」だけを取り出して条文化を行った。1項には家庭内暴力、児童虐待、女性から男性へのDV、同性間DVが含まれる。ジェンダー・ニュートラル化に逆行してまで、「女性の尊厳に対する継続する暴力」を捕捉する必要があると判断したのだ。

しかもその前後には、国が率先して、「女性の安全作戦」という広報キャンペーンを展開している。1997年、ストックホルム郡の地下鉄、通勤電車、バスに、「女性に対する暴力は可視化されなければならない」というポスターが2週間にわたって貼られた。2年後には前回と同じ趣旨のポスターが掲示されるとともに男性ロールモデルも起用され、警察署長などが「女性に対する暴力は男性の責任です」と表明することで、認知度は80%に上ったという。