立法するだけでは不十分

「『立法するだけでは人々には絶対伝わらないので、社会に広める活動が必要』ということなのです」と、矢野教授は語る。こうして、スウェーデンでは、「男性から女性への暴力」の認識が周知されていった結果、2項に該当する事例(男性から女性へのDV)は減り、現在では1項のほうが多くなっているという。

日本では昨年4月、改正DV防止法が施行され、身体的な暴力だけでなく精神的な暴力でも保護命令の申し立てができるようになったが、国民に広く周知されているとは言い難い。

「抑止力」と「更生プログラム」が必要

DV対策は国によってさまざまだが、共通しているのは、加害者に責任をとらせる体制を敷いていることだ。

アメリカではDVを犯罪とみなし、積極的に加害者を逮捕、事件化して、刑罰をもって抑止する政策をとっている。1980年代にミネアポリスで行われた調査において、「再犯を防ぐには、『仲裁』や『引き離し』よりも『逮捕』が一番効果がある」という結果が出たことが、きっかけのひとつとなっているという。

ただし、アメリカの多くの州では刑務所の過剰収容の問題もあり、有罪判決を受けても軽罪の場合には執行を猶予して、保護観察(社会の中で更生を図る処遇)で行動を監視しつつ、加害者更生プログラムの受講を命じるという施策をとっている。(出典:関西学院大学法政学会『法と政治』70巻1号/松村歌子「DV防止法の課題と加害者への働きかけのあり方」)

加害者更生プログラムとは、「加害者自身が変わるためには刑罰という抑止力だけでは不十分」という考え方のもとに、加害者の「認知のゆがみ」を修正していこうというものだ。欧米などの国々では、主に裁判所が加害者に受講を命令できるシステムをとっている。

一方、日本にはこのような加害者処遇がない。いくつかの民間団体が加害者更生プログラム講座を開催しているが、あくまでも任意で、加害者本人が受講を希望する場合に限るのが現状だ。

内閣府男女共同参画局でも近年、「加害者プログラム」の実施を推し進めるようになってきている。しかし、現時点では、「刑罰のようにプログラム受講に強制性を持たせることではない形」であり、まずは、「自らが変わることに対する動機づけを持つ者」を対象とするらしい。このままでは、自覚のない加害者は一向に野放しのままだ。