また、損益分岐点売上高が低ければ低いほど、赤字になる売上高の水準も低くなるということもできる。実際の売上高に占める損益分岐点売上高の割合を「損益分岐点比率」というが、これも低いほうが赤字になりにくい体質といえる。
損益分岐点売上高も損益分岐点比率も把握していない会社がたまにあるが、企業の収益構造、コスト体質の強さを測る判断指標として、ぜひとも把握しておきたい数値だ。それでは損益分岐点比率は、どの程度の水準が望ましいのだろうか。
景気変動などによって売り上げが10%低下することは珍しくないが、一気に20%ダウンすることはまず考えにくい。それなら損益分岐点比率が80%を切っていれは、財務体質として安心感が得られるだろう。
リーマンショック前、上場企業の損益分岐点は70%台半ばを維持していて、かなり優れた状態にあった。経費削減などの企業努力でコストを抑えたことで、利益が上がりやすい体質になっていたのである。
しかし、いま多くの中小企業の損益分岐点は90%台で、売り上げ減少に対する抵抗力に不安があるといわざるをえない状況だ。早いうちにコストを見直すなど、損益分岐点比率が80%を切るように一層の努力が求められる。
損益分岐点売上高や損益分岐点比率が低く抑えられていることは、取引銀行や株主にとっても歓迎すべきことで、冒頭の日本電子では報道が好感されて株価も上昇している。
個人の家計においても、家庭版の損益分岐点を分析しておくことは重要だ。いくら収入あれば生活が維持できるのかを把握しておくのだ。そうすれば、貯蓄に回す余裕ができる収入の水準がわかるし、給与ダウンがあっても慌てなくて済む。
(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)