ヒカリエ専用の制服を着用したヤマト運輸の社員が荷物を店頭に届ける。ヒカリエ内ShinQs 1階「SABON Japan」にて。

「お客様には何でも相談してもらい、それに対し、『できません』とは絶対いわない」と話す小西は「今の仕事が楽しい」と相好を崩す。渋谷は今後も再開発が進む。何件も館内物流を手がけた松浦も「都市型のまちづくり」を視野に入れる。

「渋谷を点ではなく面でとらえ、街の中に運送会社のトラックが入らなくても集約配送ができる仕組みをつくる。それには、競合他社さんにも賛同してもらえる仕組みが必要です。そこには、競争とか、独占という言葉はありません」

思い浮かぶのは、ヤマトがハブとなって宅配便各社と顧客を結ぶ“ハブ&スポーク”の構図だ。顧客は複数の宅配便をまとめて受け取る。配送車両も減り、環境負荷も軽減される。スマートシティ(環境配慮型都市)にはそんな仕組みが実現するかもしれない。そこにあるのは、宅配便をめぐる競争ではなく、ともに価値を生む共創のネットワークだ。

少数になると責任範囲が広がり精鋭になる

以上、ヤマト流のマネジメントと新事業創出の仕方を見てきた。改めて整理しよう。第一の特徴は徹底したボトムアップの構造だ。本社でも下からの提案の場として「経営戦略会議」が毎週開かれ、入社まもない社員も経営陣にプレゼンができる。毎朝7時半に経営陣が揃う「朝ミーティング」も同様だ。提案の場が多いのは、現場に権限委譲されている証しだ。ヤマトHD会長の瀬戸薫は「権限委譲は宅急便開設時からのやり方」という。

「宅急便を始めたとき、第一線のSDについて決めたのは権限委譲と小グループ制でした。お客様の状況は全部違うので、一番いいサービスを自分たちで判断させる。人間は少数になると責任範囲が広がり、精鋭になる。宅急便センターの規模が8~10人なのはそのためです」