音楽会や、ショー、私が担当させていただいた講演会なども、地上に、似たような体験がないわけではない。ところが、飛鳥IIという「豪華客船」の魔法で、特別なものになってしまう。
朝食をとるテラスから見る海。散歩をする一周440メートルのデッキから眺める夕陽。さわやかな潮風。時折見ることができるクジラや海鳥などの生物。そのようなさまざまな要素が「パッケージ」となって、飛鳥IIの船旅を魅力的にしている。
だからこそ、旅行代金が高くても、お客さんが納得する。満足するからこそ、リピーターも多い。すでに、飛鳥IIでの宿泊日数が数百日という方もざらで、さらには、世界一周クルーズの間、1度も船を降りなかった方までいらっしゃるという。
宿泊、食事、エンターテインメント、観光。1つひとつの要素を吟味し、さらにそれを統合されたパッケージとして提供することで、シナジーで付加価値が高まる。豪華客船の旅は、そんな1つのビジネスモデル、仕事のあり方を示している。
そこに生まれるふくよかな文化のハーモニー。船内で働いている人たちが共有している価値観、哲学が動き出す。もともとはバラバラだった要素が統合されて、1つの「世界観」を呈することに成功しているのである。
政権が変わり、長く続いた日本のデフレも、ようやく終結する雰囲気が出てきた。経済が成長しない、目新しいものがないと文句ばかり言っても仕方がない。より魅力的なパッケージを通しての付加価値の創造という命題を真剣に考えてみるべきだ。
要素はすでにそろっている。オーケストラが、さまざまな楽器の集合体で新たな宇宙を創るように、異なる者同士のシナジーは、尽くせぬ可能性を秘めている。あとは、それを実現するだけである。
(写真=PANA)