バブルで人も組織も止まっている
こうした中途半端な会見を生み出す原因となった、フジテレビが抱える一番の“膿”。それが、時代錯誤に伴う傲慢さだ。フジテレビはバブル時代で人も組織も止まってしまっているのだ。
フジテレビはバブル全盛期の80年代に「楽しくなければテレビじゃない」をスローガンに掲げた。当時はテレビ界で2番手3番手、あるいはもう少し下という立ち位置だったからこそ、あのようなスローガンを打ち出せたのだと思う。自分たちが楽しかったらいい、面白かったらいい。そうして生み出したバラエティ番組やテレビドラマが視聴者の求めるものと一致して、黄金時代を築いた。飛ぶ鳥を落とす勢いで、フジテレビが多くの流行をつくり出していたといっても過言ではない。
しかしトップランナーになってから、意識が変わってしまった。それまでは視聴者と伴走していたが、自分たちが楽しかったらいいんだと突き進んでいるうちに、視聴者を置き去りにしていた。一緒に楽しんでいる視聴者はすでにいなかったのだ。コンプライアンスうんぬんではなく、今まで笑えていたものが笑えなくなっているという現実に、経営陣は気づいていない。
スポンサーやタレントの方ばかりを向き、視聴者に意識を向けてこなかった。今でも「自分たちがつくるものを楽しんでくれたらいいんだよ」と言わんばかりの、昔のやり方や体質を引きずり続けている。
最大の失敗は「日枝氏の残留」
その様子は、会見でも垣間見ることができた。例えば、港氏だ。特に印象的だったのが、会見の冒頭でペーパーを持つ港氏の手が震えていたこと。港氏はフジテレビ黄金期に敏腕ディレクター、プロデューサーとして数々のバラエティ番組を手がけ、社長になった人。
フジテレビの体質を体現するかのように勢いのある時は強気で進むけれど、状況が一変して危機に立たされると企業のトップとしてうまく対応ができない。事の大きさを今になって感じていたようで、港氏の焦り具合からは、社長というよりもプロデューサー・港浩一としての横顔が見て取れた。
今回のフジテレビ最大の失敗は、日枝氏が残留すること。しかも、先に述べたように会見の場にも現れなかった。会見では「なぜ日枝氏がいないのか?」などと名前がたびたび挙がり、進退についての質問も相次いだ。辞任すると明言しないまでも、日枝氏はなぜ会見に出席して自分の言葉で説明できなかったのか。組織にとって大きなマイナスになると分かっていながら、日枝氏が欠席を選択したのであれば「あなたは自分の保身で逃げたのですね」と思われても仕方がない。