「社会保険料を企業が肩代わり」報道が呼んだ波紋
年収156万円未満のパートの社会保険料を企業が肩代わりする仕組みを厚生労働省が整備する方針だというニュースが、方々で波紋を呼んでいた。
厚生労働省は年収156万円未満のパート労働者の社会保険料を会社が肩代わりする仕組みを整備する方針だ。2026年4月に導入する方向で調整する。社会保険料の負担が発生して手取りが急減する「年収の壁」対策の一環で、働き控えをする人を減らす。企業の負担軽減措置も検討する。
日本経済新聞「年収156万円未満のパート、社会保険料を企業が肩代わり」(2024年12月5日)より引用
そもそも論として、一般的な勤め人の立場では「社会保険料の労使折半」が実際にはどういうものなのか知ることは難しい。
「企業も従業員の社会保険料を一部払ってくれているんだな」と漠然とした認識を持っているくらいではないだろうか。「労使折半」という言葉を認識しているならまだしも、場合によっては企業側も雇用している従業員の社会保険料を支払っていることすら知らないこともそれほどめずらしくはない。
別に責めているわけではなく、そうなるのも無理はない。毎月会社から受け取る明細はもちろん、社会保険事務所から定期的に送られてくる「医療費のお知らせ」や、あるいは「ねんきん特別便」などもそうだが、これらには企業が負担した社会保険料の累積額は一切記載されておらず、あくまで本人が支払ってきた負担額のみが記載されているので、そのような勘違いが生じるのは無理もない。
企業は賃下げで負担分を回収しようとする
「社会保険料の労使折半」は折半というだけあって名目的には5:5であり、労働者の負担額の倍額が毎月負担している社会保険料の総額ということになっている。……あくまで“名目上”は、だが。実際のところは、企業にとって社会保険料は人件費(≒法定福利費)であるため、社会保険料の分だけ賃金を下げて労使「折半」の負担分を回収しようとする。ようするに、会社側の社会保障負担分を賃下げによって相殺しているということだ。
これはつまり労働者の視点で見れば「社会保険料は額面で表示されている数字以上に間接的に(ステルスで)負担している」ことと同義である。「5:5の労使折半」というのはあくまで名目上であり、賃下げが行われてきた事情を考慮すれば実質は7:3、あるいは8:2くらいの負担割合になっているかもしれない。
「いやいや、企業側は卑怯じゃないか!」という怒りの声も上がってきそうだが、企業側(使用者)だってそんなことをやりたくてやっているわけではない。社会保障の負担があまりにも重すぎて、雇えば雇うだけ大きな負担を強いられてしまうからこそ、賃下げや雇い控えをせざるを得なかったのである。