家の中での転倒リスクも減る
実は、高齢者にとっては、家の中での転倒・転落というのも大きなリスクです。東京消防庁のデータによると、年間3万人以上の方が住宅等の居住場所での転倒・転落により救急搬送されています。
厚生労働省の「主な不慮の事故の種類別にみた死亡数の年次推移」のデータを見ると、以前は交通事故死者数がダントツで多かったのですが、交通事故死者数は年々減少しており、それに対して、窒息、転倒・転落、溺死が年々増加しています。平成20年には窒息死がトップになり、交通事故、転倒・転落、溺死が拮抗しています。
また、高齢者が「要介護」になった原因では、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱に続き、「骨折・転倒」は第4位で、全体の13%を占めています。
そして、年間3万人以上の人が救急搬送されている居住場所での骨折・ねんざ・脱臼は、図表9に示すように、暖かい家に暮らす人に比べて、寒い家に暮らす人のほうが、明らかに発生する確率が高くなっています。
寒いとけがをしやすくなるというのは、多くの方がなんとなく理解していることかと思いますが、寒いと筋肉が冷えることで血流が悪くなります。すると、筋肉自体が酸欠状態になり硬くなると柔軟性が低下するためだそうです。
家の中での不慮の事故を防ぐためにも、適切な室温を保つことは重要なのです。
「最大200万円の助成」高断熱化できる2つの場所
断熱・気密性能の低い家で、家全体を暖かく保つことは、冷暖房光熱費を考えるとなかなか難しいことだと思います。家全体を均質な室温で健康・快適に過ごすためには、ぜひ、冷暖房光熱費が気にならなくなる高気密・高断熱の家に住んでいただきたいと思います。なお、YouTubeでも「建てる前に見て!断熱性能の真実」という動画を公開しています。参考にしてください。
欧米では、低廉な賃貸住宅でも高気密・高断熱住宅が当たり前なのですが、日本では残念なことに欧米レベルの高気密・高断熱住宅で暮らすことができるのは、性能にこだわって注文住宅を建てることができるごく一部の経済的にある程度ゆとりのある方に限られています。
ですが、比較的手ごろな費用負担で、ある程度高断熱にすることは可能です。窓や玄関ドアを高断熱のものにリノベするだけで、住宅の環境はかなり改善されます。
そして国は、「先進的窓リノベ事業」という補助制度(関連記事〈「ヒートショック溺死」は愛媛、鹿児島、静岡に多い理由…「暖房をつけても足元が冷える部屋」を放置してはいけない〉p4参照)で、既存住宅の窓などの断熱改修工事にかなり手厚い補助を行っており、2025年度は、最大200万円/戸が補助されます。
中でも東京都の「既存住宅における省エネ改修促進事業」は、高断熱窓の設置に対して、3分の1の助成(上限100万円/戸)が受けられます。国の制度と併用すると、最大6分の5の補助・助成率になります。
ぜひ、窓・玄関ドアだけでも断熱改修して、快適な住環境を確保し、健康寿命を延ばすことをお勧めします。