問題を解消する力は寮生のほうが養われる
寮生は、月曜日に来て週末には帰宅する。365日のうち、寮で生活するのは150日ほど。1年間の総日数の約40%となる。
小さい子の保護者はホームシックを心配するかもしれない。実際にホームシックになる子はいるが、小さい子ほどその状況から脱するのも早いという。寂しい気持ちと学校の楽しい体験とが交互に訪れて、次第に生活に慣れる。また、ホームシック経験者のお兄さんお姉さんもいるのでそうした子が寄り添うことで元気を取り戻すという。
子どもたちが24時間生活を共にすることになるため、いくら仲が良くても衝突が生まれる。合わない子がいたり、仲のよい子といざこざを起こしたりするが、それを自分たちの力で解決していくことが求められる。
「必然的に、人間関係を構築し、問題を解消する力は寮生のほうが養われます。通学生の子よりも寮生活をしている子のほうが、社会性が育つ可能性は高いといえます」と堀さんは言う。寮は自宅が遠くて通えない子を預かるだけではなく、学校としての体験的な学びを得る機能を持った場であると位置付けられている。
「問いを立てる力」を奪わない
私たちが受けてきた学校教育のスタイルとは大きく異なる、きのくに子どもの村学園。自身の関心から端を発し、学びを自ら作っていく体験を私たちはどれくらい経験してきただろうか。堀さんはこうした学びの価値について述べる。
「とある大企業の人事担当の方が、新人研修で『これからの時代にはこれが重要であると思うことを自分で課題を設定して書いてください』とお題を出したら、惨憺たる結果だったと言っていました。与えられた課題は頑張れるけれど、自分で問いを設定したり発見したりすることができない社会人が多いことは日本の大きな課題でしょう。
社会に対して問いが生まれないということは、社会課題の解決につなげられる人材が育っていないことを意味します。きのくに子どもの村学園では、公害の現場や震災後の様子を実際に見に行き、その時に抱いた感情をもって話をします。そして、日々の授業でも子どもたちが問いを持ち、自ら学びのプロジェクトを動かしています。
日本のすべての学校が当校の自由教育に舵を切るという極論を求めているのではなく、少なくとも、周囲の大人が子どもの問いや関心を、おもしろがり、一緒になって不思議がっていく環境を作ることは学びに不可欠だと考えています」
幼い子どもは放っておけば「なんで?」「どうして?」と自然に疑問を持つ。つまり、成長の過程でその「問いを立てる力」を奪われてしまっている現状がある。公立学校でも探究学習への取り組みが進められ、まさにその課題に向き合い始めたところだ。今後の学校教育転換の肝はここにある。