「織田信長の三段撃ちで…」驚きの解決策も

当校のプロジェクトは、「自己決定の原則・個性化の原則・体験学習の原則が調和的に実行される取り組みである」と位置付けられている。つまり、プロジェクトを子どもたち自身が選び、子どもたちの特性や関心によって取り組む内容が選択され、そして体験から学んでいくことが大切にされている。

プロジェクトの一つ「ひらおだいファーム」では、米作りについて話し合いが行われていた。今年は全体の収穫高のうち、うるち米8割・もち米2割の割合で作るという方針だ。

田んぼの面積を測り、何本の苗を植えて、どれくらい収穫できるかを計算しようとする子。「ジャンボタニシからどう苗を守ったらいいか」を調べる子。「広い田んぼがあるんだから、スカスカだと嫌だよね。たくさん収穫できるようにしたい」と話し合う子。さまざまな学びや議論が展開される。

子どもが議長を務めるプロジェクトの話し合い
筆者撮影
子どもが議長を務めるプロジェクトの話し合い

学習は教室内にとどまらず、田んぼでの農作業も行われる。この日は、田起こし(土をかき混ぜ、さらに空気に触れさせることで土壌の養分を活性化させる作業)の活動をした子どもたちが達成感とともに帰ってきた。

子どもだけで田おこしを行うと、時間がかかりクタクタになる。この経験から、織田信長の火縄銃の三段撃ち(縦一列に3人が並び、1人目が射撃をする間に残りの2人が準備をして、順番に前に出て連続して銃を撃つ戦術)を知っていた子どもから、その方法で田起こしを実践してみようと提案がなされ、取り組まれたという。

歴史の学習が田植えで活かされる。さまざまな知識がクロスして体験的な学びにつながっていくのが、きのくに子どもの村学園の特徴である。

「教科書を開いて」とは言わない

プロジェクトの議論の輪の中には大人もいる。しかし、その場を仕切ったり、「こうしなさい」と指示を出したりすることはない。議論を見守り、「低学年の子がついてこられていないな」と気づいたら、手を挙げて「今、どんなことが決まっているんだっけ? ちょっとわからなくなっちゃったな」と整理をするように促す。また、議論が停滞したら「他に注意しておくことはないかなぁ?」と次のトピックに向けて背中を押す。

こうした体験的な学びの意義について、学園長の堀真一郎さんはこう述べる。

「本校では、子どもたち自身の『これなに?』『気になるな』という感覚を大事にしています。現在の日本の多くの教育は、そうした関心や好奇心なしに、いきなり『今日はこんな勉強をします。教科書を開いて』と言って始まるじゃないですか。どんなに丁寧に教えても、興味がなければ深く学びたいとは思いません。実際に、ものを作ったり調べたり食べたりする中で疑問や関心を持って、学びは始まっていくと思うのです」

子どもたちがプロジェクトで制作した茅葺屋根の家
筆者撮影
子どもたちがプロジェクトで制作した茅葺屋根の家