16時間勤務、ほぼ予約で埋まっている
聞けば、正午から朝の4時までの16時間勤務。コースによって異なるが、今日現在、彼女にはほとんど空きがなく、ほぼ予約で埋まっているというのだ。
空いた時間には、このベッドに寝転んで、スマホで動画サイトを見たり、仕事に使ったバスタオルや自分の身の回りのものを洗濯したり、日本にいる女友達と電話をしたりしている。確かに部屋を見渡すと、パソコンやテレビなどひまを潰せるようなものは何ひとつない。壁の時計の針だけがチクタクと時を刻んでいる。目を凝らすと文字盤にはSEIKOとあった。
「韓国のほうが日本よりお金はもらえるの?」
「まぁ、本番は日本と同じくらいやねんけど、こっちのほうがオプションが高くて」
たしかにAV撮影のオプションつきだと、40分で約4万5000円。決して安くはない。日本で撮影のオプションなどつけるともっと高くなるのではないか、という疑問が湧いたが、あえて口にしなかった。
「ねぇ、話ばかりしてないでそろそろ始める?」
ナオは記者の体をさすり始めた。制することはしなかったが質問は続けた。
「ご飯は何を食べているの?」
ナオはベッタリと体を寄せながら答えた。
「下にコンビニあるやん」
「おいしいものは食べないの? せっかくだし観光は?」
「お金稼ぎに来たんだから……」
「カレシおんねん…」沈黙が訪れる
そして何かを思い出したかのように、記者の体をさする手を止めた。
「まぁ……ほんまは、今日ジョングクの誕生日やってんな。ほんで、ソウルに行こうと思ったけど、怖くていけんかった」
言葉が通じない外国でカラダを売りながら、電車でわずか30分ほどの距離にあるソウルに行くのが怖い……理解に苦しむ話だった。
「お兄さん、勃たないね」
記者の頭の中で新大久保で2世のイから忠告された言葉がこだましていた。
(絶対に本番はするな――)
それまで饒舌に、そして雰囲気を盛り上げようとしていたナオが急に黙り込んだ。沈黙に耐えきれなくなり、記者は顔をナオの口に近づけた。しかし、避けられた、それは頑なだった。
「なんで? ダメ?」
「いや……」
「どうして」
「カレシおんねん……」