ホストの情報は何ひとつ教えてくれなかった
その時、ナオのスマホのアラームが鳴り出した。部屋に入ってからすでに35分がたっていた。
「やってないけど、シャワー浴びる?」
手短に体を洗い、風呂場から出ると、ナオが自分で洗濯しているというタオルを持って待っていてくれた。体を拭いて、服を着る。よく見ると最初に記者が脱ぎ捨てた服はきれいに畳まれていた。
「250万円稼いだら、何に使うの?」
「ホスト(笑)」
それはホストの彼氏なのか、別のホストなのか、あえて聞くのをやめた。
ナオは、根はいい子なのだろう。こんな子にカラダを売らせるために海外にやる男とはどんな輩なのだろうか。素性を知りたくて店やホストの名前を聞いてみたが、何ひとつ教えてもらうことができなかった。
鶏小屋のようなビルで働く日本人女性
そろそろここを出なければならない。玄関で靴を履いていると、背後からナオが思いがけないことを言った。
「ほんまはあかんけど、LINE交換できる? 韓国で困ったことあったらいろいろ聞きたいし……」
カネを受け取りながらも、仕事を全うしなかった後ろめたさから出た言葉かわからないが、躊躇はなかった。
QRコードを読み取り、連絡先を交換。玄関で向かい合う。最後にナオの顔をもう一度見た。思ったより幼かった。手を振ると、扉が静かに閉まり、ガチャンという音が廊下に響いた。
来たときよりも廊下の臭いは気にならなかった。記者はエレベーターに乗ると下る階数表示を見ながらある思いがよぎった。
間違いなく、ここ韓国で体を売っている日本人女性がいる。それも複数……。
この鶏小屋のようなビルのどこかにはナオの他にも日本人女性がいて、毎日客を取っている。こんな場所はソウルの、いや韓国のその他の場所にもあるに違いない。