「母の傘寿のお祝いに小さい頃にもらった絵本を贈りました」
私の生涯で、万年筆はこれ1本です。新しいものを欲しいと思ったことはありません。いただいたものはあったかと思いますが、やはりこれが一番しっくりくるのです。名前が入っていたのですが、それはいつの間にか消えてしまって、ボディーに少しひびが入ったので修理しましたが、ペン先はそのまま。長持ちするものですね。
本校でも、手紙を書くことは非常に大切にしています。上級生が下級生に送ることもありますし、下級生が上級生に送ることも。社会科見学などで学校外の人にお世話になったら、必ずお礼状を書きますし、年賀状や暑中見舞いも書いて、お友達や先生方に送っています。
「心のこもった贈り物」と言いますよね。相手のことを考えて贈るのは、どんなものでもすてきですが、相手を思って書く手紙もすてきなプレゼントになるのではないでしょうか。
とはいえ贈り物を選ぶのは、なかなか難しいですね。私も、一生懸命考えます。ただ遊び心を大切にしたいので、通り一遍でないものを贈りたいと心がけています。
母の傘寿(八〇歳)には、“傘”にかけて『あまがさ』(やしまたろう作)という絵本を贈りました。この絵本は、私が子供のころに母が買ってくれたもので、その不思議な雰囲気の絵柄に引かれて、大人になってからもずっと心の中にあったのです。私が小さいときにもらって嬉しかったので、今度は母に差し上げますって言ったら、こんなのあげたかしらねって。でも、とても喜んでいました。
こうして贈り物について考えてみると、教育こそ、子供の未来への贈り物だと感じます。
今は時代の変化が速くて、小学校に入学してから高校を卒業するまでの12年間でも、世の中が大きく変わってしまうほどのスピードです。想像もつかない未来に向けて、大事なことは、どのような世界になっても通用する基本的な人間としての生きる力です。子供たちが生きる力を育むために、大人たちは何を与えるか、どんなメッセージを伝えるか、しっかり考えていかなければいけないでしょうね。