親が幼児教育をする上で必要な「優しさ」と「厳しさ」のバランス
上に挙げた、高学歴でも職場でさまざまな問題を抱えている人たちの幼児期の体験にもあるように、やり方を間違えると、大人になってからさまざまな問題を抱えることになる可能性があります。
では、どうしたらいいのでしょうか。
まず親御さんに知っておいていただきたいのは、「優しさの愛情」と「厳しさを持った愛情」という異なる2つの愛情を適切に注ぐことの重要性です。
「優しさの愛情」は子供の存在をまるごと肯定してあげる、包み込むような愛のことを指します。親であれば誰もが持っている本能的な愛情といえます。
一方、「厳しさを持った愛情」は、「ダメなものはダメ」と、厳しく、かつ愛情を持って子供に社会のルールを教えることです。厳しくといっても、何事にも厳しくするということではなく、例えば、子供が社会的なルールを破るような行動をしてしまった時に、それはダメなことだと厳しく教えることです。
生またばかりの頃は「優しさの愛情」により親子間の愛着を形成しておくことが大切です。愛着とは乳幼児期に親子間で築かれる心理的な結びつきのことです。その土台の上に、子供が年齢を重ねるにつれて「ダメなものはダメ」と厳しい愛情をもって社会のルールを教えていくのです。
その時に子供の反抗期などとも重なり、親としては自分の思いどおりにはならないという困難に直面しますが、幼少期の親子の間に愛着が形成されていれば、子供は親から厳しいことを言われても、「親は自分を大事にしているから、厳しく言ってくれているのだ」と受け止めることができます。
こうした親子関係や信頼関係が確立されれば、子供が社会に出て困難に対してフラストレーションを感じた時も対処できるようになり、自分の感情や欲求を制御しなければならないという社会性の基礎を身につけることもできるのです。適切な振る舞い方や空気を読む力、社会に出て必要になる「破ってはいけないルール」を守る感覚も身についていきます。社会性を育む上で重要な「優しさの愛情」を十分に与えた上で、「厳しさを持った愛情」に基づき叱る行為は、とても大切なことなのです。
ところが、1990年代になって「叱らない子育て」がもてはやされるようになりました。曰く、「幼い子供に厳しくすると脳が萎縮し、ストレスホルモンが出て脳神経の発達が阻害されますよ」と。そんな根拠不明な言説がまことしやかに言われるようになったのです。そういう情報に踊らされて、子供に厳しくてはダメだと鵜呑みした親御さんたちが増えた結果、前述したような社会人生活を送るのに苦しむ子供を量産してしまっているのです。
もちろん虐待レベルの過剰な厳しさで子供に接してはいけません。しかし、普段は「優しさの愛情」を与えていて、子供がルールを破った時に「ダメなものはダメ」だと「厳しさを持った愛情」で叱るくらいで脳に問題が起きるのなら、今よりも親に厳しく育てられてきた50歳以上の人たちはみんな頭に問題を抱えているはずです。しかし実際にはそんなことはありません。一定の厳しさは必要なのです。
子供はまだ社会的ルールも礼儀も知りませんから、自己中心的だったりルールを破ったりするのは普通のことです。その際、1回目は優しく注意します。もし、また同じことをしたら、次は厳しく言います。それでもダメなら、もっと厳しく叱ります。それにより子供は、「ダメなものはダメ」だということを学んでいくのです。
何もかもルールでガチガチにしてしまうのも、子供のクリエイティビティを奪うことにつながりかねないので、それは良くありません。
しかし、「優しさの愛情」と「厳しさを持った愛情」をバランスよく子供に与えて、温かい愛情で育てていけば、子供たちは将来必ず社会的に成功し、かつ幸せを感じる人生が送れるようになるはずです。