③優秀だが人の立場や気持ちを無視し、組織批判

同じく関西の難関私立大学を出てIT関連会社で働いている30代の人は、仕事は優秀でも、空気を読まず、人の立場や気持ちも考えない、それで他人や組織の批判ばかりを言う。当然、周りから嫌われていて、会社の中で孤立していました。

④コミュニケーションが苦手な頼りない弁護士

猛勉強で超難関の司法試験をクリアした弁護士であるにもかかわらず、コミュニケーションが苦手で、自信がなさそうな雰囲気が体全体から出てしまっている。仕事を依頼してくれるクライアントは少なく、収入は一般企業に勤務したほうが多いのではないかと悩んでいる。

⑤自信が持てず自己肯定感が欠如し、うつ発症

東京の名門私立大学を出た人で、コミュニケーションは十分にできるにもかかわらず、長期間うつ病に悩まされていました。自分に自信が持てず、過剰な自責傾向があり、自己肯定感が欠如していて、何でも自分のせいにしてしまう。その結果、うつ病を発病してしまった。

以上のように、基本的なコミュニケーションに大きな問題はなく、勉強も優秀にもかかわらず、社会に出て苦戦する人々。どうしてこんなことが頻発しているのでしょうか。さらに聞き取りをすると「背景」が見えてきました。

実は幼児期の親の育て方が原因だった

①の男性は、子供の頃に親に厳しくされたことがありませんでした。つまり、親のしつけによって社会性を身につけるという経験が欠落していたおり、叱られたこともないので、ここまでやってもOKだけど、これを超えたらダメだといった線引きができない。学生時代は学業優秀だったので大目に見られてきたことも、社会人になったら許されないことが多いのですが、その判断もできないのです。

IT関連企業で働いている②の人は、他人の立場や気持ちを考えずに批判ばかりする傾向がありますが、①と同様に親に厳しくされた経験がない。親はとても優しく、なんでも子供に合わせてやってくれていたそうです。面談した際、親に厳しくされた経験がなく、厳しさを伴った愛情が不足するとこういうことが起きやすいと説明したところ、その人は号泣し始めました。「おっしゃるとおりです。会社で自分が浮いているのは分かっていたけど、どうしていいか分からなかったんです」と。

算数の宿題を手取り足取り手伝う母親
写真=iStock.com/takasuu
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この①に人も②の人も、大学の友達やサークルの仲間などとのコミュニケーションに問題はなかったそうですが、より密接した人間関係が求められる仕事になると、本性(ボロ)が出てしまったわけです。

共通点は、親の育て方。こういう時にはこう振る舞うべきだとか、人の立場、気持ちを大事にしないといけないという厳しさが足りなかった。親御さんとしては子供がかわいいから大事に育ててきただけで、それ自体は決して悪いことではありませんが、結果的にそれによってわが子に被害が出ているのです。

親の教育による影響で、もうひとつ見逃せないのが、勉強に関することです。

親に「勉強ができない人間はダメだ」といった強迫観念があり、子供には勉強をさせる。子供は小さい頃は言うことを聞くので、勉強が得意になる。すると、親はさらに上を求め、とにかく勉強だけさせていればいいと、追い込む。子供を言いなりにする傾向は勉強以外のことに関しても同じで、とかく子供の言動に批判的なことばかり言ったり、子供を否定したりするのです。これにより子供は、「自分はダメな人間だ」と思い込でしまうケースがあります。

それに当てはまるのが、④の弁護士の方と⑤の自己肯定感が欠如していてうつ病になってしまった人で、二人とも親が非常に厳しかったそうです。

親にかわいがられたり、温かい愛情を受けたりしたことは記憶にないと言っています。それだけでなく、親からは「お前の努力はまだまだ足りない」とか「こんな成績しか取れないのか」といった過度な否定の言葉ばかり投げつけられ、自己肯定感が欠如してしまったのです。

親にほとんど厳しくされなかった人と、過度に厳しくされた人。その両方が、社会に出て、苦しんでいるのです。