生活保護受給者のゴミ屋敷
私が行政機関である福祉事務所の生活保護課に勤めていたころのことです。ある女性ケースワーカーから次のような相談がありました。
「前任者から『とくに問題はない』と聞いて引き継いだケースなんですけど、行ってみるとゴミ屋敷で、しかも精神的にもなにかありそうで……」
生活保護の現場に限らず、行政の部署は地区ごとの担当制になっています。こう言ってしまうと元も子もないですが、担当者の中には、どうせ数年で異動するのだからと、臭いものに蓋をするかのように、関わったがために面倒になるのを嫌って、事なかれ主義を貫く人もいるのです。そうして年度が変わった春先に、新担当になった旨を告げる受給者宅への訪問で「聞かされていたことと違う」と新担当が困ることになるのです。
「『部屋は綺麗ではないけど、まあ大丈夫』と聞いていたのですが、アパートはひどい状況でして」
と、ケースワーカーは続けます。
福祉事務所の「生活技能を補う」という役割
「軽度」知的発達症や認知症などでゴミ屋敷化してしまった自宅は、居宅清掃といって、福祉事務所が部屋の片付けを行うことがあります。もちろん公費で行われます。実際に作業をするのは近隣の清掃業者ですが、ケースワーカーがこれに立ち会わなければならないこともあります。現金などが発見されたら回収して、余剰分の生活保護費だったとして区市町村へ返還してもらわなければならない可能性も出てくるからです。
ゴミ屋敷の住人が生活保護を受けているとわかると、アパートの大家さんや近隣住民からクレームが直接福祉事務所に入ることも少なくありません。「片付けろ」「本人を追い出せ」などです。
しかし、本人の住居を奪うことは福祉事務所にはできないので、居宅清掃という選択になるのです(場合によっては、福祉事務所と病院の調整の結果で、精神科へ入院となる人もいます。病状が問題なのではなく、福祉的な介入が行き届かないがための、いわゆる『社会的入院』です)。
病気や障害で身辺の清掃にまで注意が行き届かない方もたくさんいるのは事実で、福祉事務所は、こうした受給者の足りない生活技能を補う役割も持っていると言えます。
が、こうした対応を忌避する職員がいるのも、また事実です。