ここ数年、スマホとソーシャルメディアの普及に伴い、一般の人たちが目撃した場面を撮影してネットに投稿するようになった。この手のOSINT(オープンソース・インテリジェンス)が軍事的にも利用されることはウクライナ戦争を見れば明らかだ。ところが、台湾軍の上層部は自軍の機動部隊を中国のミサイルから守るために必要な情報セキュリティーをいまだ採用していない。
中国の福建省や江西省から発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)・東風は、台湾のあらゆる場所に最短5~7分で到達する。台湾は複数の早期警戒レーダーシステムを導入しており、少なくとも防空レーダー自体が破壊される前に、ミサイルの落下点をある程度、予測できる。ただし、戦況の不透明さや軍内部のコミュニケーションの不備を考えると、警告が現場の部隊に間に合う可能性は低い。
微信に投稿した中国企業は、政府の所有ではないとみられる。同社のサイトには世界中の軍事および安全保障に関する研究論文が数多く掲載されているが、台湾に関連するものは数えるほどだ。
もっとも、アメリカの情報機関や国防総省も似たような状況だ。アメリカでは膨大な数のコンサルティング会社や業者が「インテリジェンスのアウトソーシング」を提供している。
ただし、米中とも企業の活動や一般に入手可能な情報を収集分析するOSINTは、国家としての総合的な情報、監視、偵察能力としては最低レベルにすぎない。中国も政府や軍事レベルで、はるかに強力で秘匿性の高いツールを保有していることは確実だ。
例えば、中国の商用リモートセンシング衛星システム・吉林1号は、報道によると昨年には既に138基が軌道上にあり、地球上の任意の地点の最新画像を宇宙から10分おきに撮影できる。軍と国の情報機関は数百基の強力なスパイ衛星群を利用している。
中国は既に台湾のあらゆる場所を常時追跡できる、というのは大げさかもしれない。しかし、今回の微信の投稿が示すとおり、中国の情報関連能力は急速に進化しており、ソーシャルメディア時代に台湾が機密を隠し切れないという現実がそれを助けている。台湾軍はより慎重かつ柔軟な戦術で活動しなければ、戦争の初期段階で、最も重要な防衛資産を中国にたやすく破壊されかねない。
複数の台湾軍関係者は、海鋒大隊には公表されていない「待機」地点が台湾全土にあることや、投稿で暴露されたのは部隊全体のごく一部であることを認めている。しかし、部隊が配備される可能性のある地点が暴露され記録されるたびに、中国による「標的の解析」の精度が高まり、衛星などを使って迅速かつ容易に追跡できるようになる。